なぜ、忙しいのに現場が前へ進まないのか?第1回目

 

今回の相談者は、電気工事の監督です。

相談内容

監督
監督

 毎日、職人も自分も朝から忙しく動いています。
 それなのに、夕方になると予定していた作業が終わっていません。

 誰かがサボっているわけではなく、それぞれが必要だと思う仕事をしています。

 しかし、確認や手直し、急な対応に追われて、肝心な工程が前へ進みません。
 監督として何から見直せばよいのでしょうか?


まさや
まさや

 お疲れ様です。「まさや」です。

 毎日の現場対応、本当に大変だと思います。

 作業を進めながら、職人への指示や確認、工程の調整まで行うのは、決して簡単なことではありません。

 今回のミーティングでは、現場で起きていることを一度に全部解決しようとはせず、テーマを分けて整理していきます。

 全部で5回に分けて、1回ごとに一つの課題を取り上げ、現場で使える形にしていきたいと思います。

第1回 優先順位
第2回 確認
第3回 完成基準
第4回 教え方
第5回 任せ方

 毎回、現場で実際に起きていることを確認しながら、少しずつ進めていきます。

 無理に良い答えを出そうとせず、普段感じていることをそのまま話してもらえれば大丈夫です。

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この問題は、ひと言で答えが出るものではありません。

なぜなら、同じ行動に見えても、動いた理由は人によって違うからです。

すぐに注意の仕方や改善策を決めるのではなく、まずは現場で何が起きていたのか、本人は何を大切にして動いていたのかを、一つずつ整理していきます。


まさや
まさや

 今回、最初に確認するのは、5つのズレのうち「優先順位のズレ」です。

 現場が忙しいと、つい

「もっと早く動いてほしい」
「無駄な作業を減らしたい」
「職人に段取りを考えてほしい」

 と考えてしまいます。

 しかし、全員が忙しく動いているにもかかわらず、予定していた工程が終わっていないのであれば、単純に作業スピードだけの問題ではない可能性があります。

 まず確認したいのは

 現場の全員が、今終わらせるべき作業を同じように認識していたか

 ということです。


第1回 優先順位のズレを整理する

現場では、動いている時間が長いほど、仕事が進んでいるように見えます。

しかし、実際には、

  • 材料を探している
  • 別の職人からの相談に対応している
  • 気になる納まりを直している
  • 何度も監督に確認している
  • 後でもできる手直しをしている
  • 急な依頼にその都度対応している

といったことに時間を使っている場合があります。

どれも、まったく必要のない仕事ではありません。

むしろ、本人は必要だと思って動いています。

だからこそ、問題が見えにくくなります。

全員が真面目に動いている。

それでも、今日終わらせるべき作業が終わっていない。

このようなときは、仕事量を見る前に、何を先に行い、何を後回しにしたのかを確認する必要があります。


まさや
まさや

 それでは、昨日の現場を例にして確認してみましょう。

 昨日、予定どおりに終わらなかった作業は何でしたか?

監督
監督

 3階の幹線配線です。

 昨日中に終わらせて、今日から結線に入る予定でした。

まさや
まさや

 実際には、どこまで終わりましたか?

監督
監督

 半分ほど残りました。

まさや
まさや

 配線を担当していた職人は、途中で何かしていましたか?

監督
監督

 午前中は材料の確認をしていました。

 午後からは、別の場所の器具の位置を直したり、応援の職人から相談を受けたりしていました。

まさや
まさや

 その仕事は、昨日中に行う必要がありましたか?

監督
監督

 いいえ、器具の位置は、急ぎではありませんでした。

 相談も、本人が対応しなくてもよかったと思います。

まさや
まさや

 そうすると、今回確認したいのは

 「幹線配線が遅れた理由」だけではありません。

その前に
 幹線配線より先に、どの作業へ時間を使っていたのかを整理する必要があります。

監督
監督

?????


「何をしたか」より「何を遅らせたか」を見る

現場で優先順位のズレを確認するとき、本人が行った作業だけを見てしまうと

「なぜ、今それをやるのか」
「そこは後でもいいだろう」

と、イライラしやすくなります。

しかも、なぜ現場が前へ進まなかった原因までは分かりません。

大切なのは
その行動によって、何の作業が遅れたのかを見ることです。

今回の例を整理すると、次のようになります。

先に行ったこと後回しにしたこと結果
器具位置の修正、ほかの職人への対応3階の幹線配線幹線配線が終わらず、翌日の結線作業に入れなくなった

ここまで整理すると、問題は

「職人が余計なことをした」ということではありません。

本当の問題は

翌日の工程につながる幹線配線よりも、急がない作業を先にしていたことです。

つまり今回起きていたのは、作業量の問題ではなく

何を先に終わらせるかという「優先順位のズレ」だと分かります。


本人は、なぜその仕事を先にしたのか

ここで、すぐに、

「急ぎの仕事を先にしろ」
「勝手に違うことをするな」
「周りのことより自分の作業を進めろ」

と注意しても、同じことが繰り返される可能性があります。

なぜなら、本人の中では、その作業を先にする理由があるからです。

 

まさや
まさや

 器具の位置を直していた職人は、なぜその作業を始めたのでしょうか?

監督
監督

 本人は、通りが悪いのが気になったと言っていました。

まさや
まさや

 そのままにすると、何が気になるのか聞きましたか?

監督
監督

 そこまでは聞いていません。

 ただ、「今はそこじゃないだろう」とは言いました。

まさや
まさや

 そこを、もう少し確認してみたいですね。

 本人は、急ぎの工程を無視したかったのではなく

 「雑な状態を残したくない」
 「あとで手直しになるのを避けたい」
 「見つけた問題は今直した方がよい」

 と考えたのかもしれません。
 本人なりに、現場を良くしようとしていた可能性があります。

監督
監督

 確認してみます。


優先順位は、本人が大切にしているものによって変わる

同じ現場にいても、何を優先するかは人によって違います。

例えば

品質を大切にする人急ぎの作業よりも、気になる施工不良を先に直そうとします
周りとの関係を大切にする人自分の作業よりも、困っている職人の手伝いを優先します
成果を大切にする人工程全体よりも、早く終わりが見える作業を進めようとします
納得して進めたい人自分が気になった違和感を解消するまで、次の作業へ移れないことがあります
慎重に考える人作業を始める前に情報を集め、確認することを優先します
安全を重視する人少しでも不安があると、確認が終わるまで作業を止めます
楽しさや可能性を重視する人新しい作業や変化のある仕事へ目が向きやすくなります
自分で判断したい人監督への確認より、現場を止めないことを優先します
周囲との調和を大切にする人強く主張せず、頼まれた仕事を断れないことがあります

どれが正しく、どれが間違っているという話ではありません。

それぞれが、現場で大切な力です。
ただし、本人が大切にしていることと、監督が今日優先してほしいことが違えば

「そこ、今やるところじゃないだろう」というズレが起きます。


今回のズレの正体

今回、監督が優先していたのは

今日中に幹線配線を終わらせ、翌日の結線作業へつなげることでした。

一方で職人が優先していたのは

目の前で気づいた施工上の違和感を残さないことでした。

どちらも、現場にとって必要な考えです。

問題は、職人が品質を大切にしたことではありません。

監督と職人の間で

  • 今日、必ず終わらせる仕事
  • 後で対応してよい仕事
  • 自分で判断してよい範囲
  • 途中で相談する条件

がそろっていなかったことです。

つまり、今回の問題は

やる気の不足ではなく、優先順位の基準が共有されていなかったことだと考えられます。


今回目指す状態

今回の改善で目指すのは、職人に何も考えず、指示どおりに動いてもらうことではありません。

目指すのは
現場の目的を理解したうえで、本人が優先順位を判断できる状態です。

具体的には、朝の時点で職人が

「今日は、まず幹線配線を終わらせる」

「器具の位置は気になるが、幹線配線が終わってから直す」

「ほかの職人から相談されても、急ぎでなければ監督へつなぐ」

と判断できる状態をつくります。

監督が一日中すべての行動を指示しなくても、現場の目的に沿って動けることが理想です。


改善プロセス1

今日終わらせる作業を一つ決める

最初に行うのは、今日の最優先作業を一つ決めることです。

現場では、

「これも急ぎ」
「あれも今日中」
「できるところまで進めて」

という指示が多くなりがちです。

しかし、優先する仕事が三つ、四つと並べられると、受け取る側は自分の基準で順番を決めます

その結果、監督が考えていた順番と違う動きになります。

朝礼では、少なくとも一つ、

今日、何を終わらせれば現場が前へ進んだと言えるのかを明確にします。

今回であれば、
「今日の最優先は、3階の幹線配線を完了させることです」と伝えます。


改善プロセス2

なぜ最優先なのかを伝える

作業名だけでなく、なぜ優先するのかも伝えると効果的です。

例えば

「今日中に幹線配線が終わらないと、明日の結線作業に入れません」

「結線が遅れると、盤の試験と引き渡しも後ろへずれます」

と、次工程とのつながりを説明します。

理由が分かると、職人は途中で別の作業が気になったときに

「今、こちらを先にしてよいか」を判断しやすくなります。

ただ「急いでください」と伝えるより

何が遅れるのか」を伝えると、優先順位はそろいやすくなります。


改善プロセス3

後回しにする仕事を決める

優先順位を伝えるときは、先に行う仕事だけでなく、後回しにしてよい仕事も伝えます。

今回であれば

「器具の通りで気になる部分があっても、危険がなければ写真を撮ってメモに残してください」

「修正は、幹線配線が終わった後に行います」

と伝えます。

職人にとっては、気づいた問題を放置することに抵抗があるかもしれません。

そのため

「やらなくてよい」ではなく、

今は行わず、後で対応する」と伝えることが重要です。

後回しにする基準が決まっていれば、本人も安心して最優先作業へ戻れます。


改善プロセス4

作業を変えるときの相談ルールを決める

急な依頼や問題が起きたときに、どの時点で監督へ相談するのかを決めます。

例えば

  • 最優先作業を止める必要があるとき
  • 30分以上、別の対応が必要になるとき
  • 安全や品質に影響する問題を見つけたとき
  • 他職から急ぎの依頼を受けたとき
  • 今日の完了予定が難しいと感じたとき

には、作業を変更する前に監督へ伝えるようにします。

職人にすべて確認させるのではありません。

工程に影響する変更だけを相談する」という基準をつくります。


改善プロセス5

昼の時点で一度確認する

夕方になってから、

「予定どおり終わりません」と分かっても、挽回するのは難しくなります。

そのため、昼の時点で短く確認します。

確認する内容は、次の3つです。

  1. 最優先作業は、今どこまで進んでいるか
  2. 途中で予定外の作業が入っていないか
  3. 今日中に終わらせるために、何が必要か

長い打ち合わせを行う必要はありません。

5分程度でも、工程がずれていることを早めに見つけられます。


現場での声かけ例

朝礼で伝える場合

監督
監督

 今日の最優先は、3階の幹線配線を終わらせることです。
 これが終わらないと、明日の結線作業に入れません。

 途中で器具の通りや細かい納まりが気になった場合は、写真とメモを残してください。

 安全上の問題がなければ、修正は幹線配線が終わってから行います。

 ほかの作業へ移る必要があるときは、一度私に声をかけてください。

 

別の作業を始めていた場合

監督
監督

 今、器具の位置を直していましたが、どこが気になりましたか?

職人
職人

 少し通りが悪かったので、このままだと仕上がりが雑に見えると思いました。

監督
監督

 仕上がりに気づいて、直そうとしてくれたことは助かります。

 ただ、今日の最優先は、3階の幹線配線を終わらせることです。

 幹線配線が終わらないと、明日の結線作業に入れません。

 この部分は写真とメモに残して、幹線配線が終わってから直しましょう。

 今は、幹線配線を優先してください。

 

予定より遅れている場合

監督
監督

 今の進み具合だと、今日中にどこまで終わりそうですか?

職人
職人

 このままだと、少し残ると思います。

監督
監督

 途中で予定外に対応した作業はありましたか?

職人
職人

 午前中に別の職人の材料確認を手伝いました。

監督
監督

 分かりました。ありがとうございます。

 次から、最優先作業を止めて別の対応をする場合は、先に声をかけてください。

 今日は、残りを終わらせるために、応援を一人入れますね。


注意するときは、本人が大切にしたことを否定しない

優先順位がずれたときに

「余計なことをするな」
「そんなことは後でいい」
「勝手に判断するな」

と伝えると、本人は自分の考えを否定されたと受け取ってしまいます。

特に、品質や安全を大切にして動いた人に対して

「細かいことは気にするな」
と伝えると、その人の強みまで失われる可能性があります。

大切なのは

「気づいてくれたことは助かる」
「品質を守ろうとした判断は分かる」

と認めたうえで、

「ただし、今回は次工程を止めないことを先にする」
と順番を示すことです。

大切なのは、本人の考えを否定することではありません。

「その判断は、今すぐ行うことなのか。それとも、最優先作業が終わってから行うことなのか」

という順番を、監督と職人でそろえることが改善につながります。


おススメのKPI

今回のKPI

KPIとは?

今回確認するKPIは

最優先作業達成率」です。

計算方法は、次のとおりです。

最優先作業達成率
=予定どおり完了した最優先作業数
÷設定した最優先作業数
×100

例えば、1週間で最優先作業を5件設定し、そのうち4件が予定どおり終わった場合は、

4件÷5件×100=80%

となります。

この数字を見ることで

「全員が忙しく動いていたか」ではなく

現場を前へ進めるために決めた作業が、予定どおり終わったかを確認できます。

達成できなかった場合は、職人の能力や意識をすぐに問題にするのではなく

  • 最優先作業を明確に伝えていたか
  • 優先する理由を共有していたか
  • 後回しにする作業を決めていたか
  • 途中で予定外の作業が入らなかったか
  • 作業変更時の相談ルールがあったか

を振り返ります。

まさや
まさや

 このKPIは、人を評価するためのものではありません。

 監督と職人の優先順位をそろえ、予定していた工程を前へ進めるために使います。


今回のまとめ

忙しいのに現場が前へ進まないとき、最初に見直したいのは、職人の動く速さではありません。

確認するのは、
現場の全員が、今日終わらせるべき仕事を同じように理解していたか

ということです。

今回のポイントは、次のとおりです。

  • 忙しさと、工程が前へ進むことは同じではない
  • 何をしたかだけでなく、何を遅らせたかを見る
  • 本人には、別の作業を先にした理由がある
  • 最優先作業は、一つに絞って伝える
  • なぜ優先するのか、次工程とのつながりを説明する
  • 後回しにしてよい作業を決める
  • 作業を変えるときの相談ルールを決める
  • 昼の時点で進み具合を確認する
  • 最優先作業達成率を数字で確認する

優先順位のズレは、
「職人が考えていないから」

起きるとは限りません。

むしろ、それぞれが自分なりに必要な仕事を考えているからこそ起きます。

監督の役割は、すべての行動を細かく指示することではありません。

何を先に終わらせ、何を後回しにするのか。

現場が前へ進んだと言える状態は何か。

その基準を、職人とそろえることです。

次回は、5つのズレの2つ目である「確認のズレ」を取り上げます。

優先する作業が決まっていても、確認が多すぎれば作業は止まります。

反対に、確認せずに進めすぎれば、手戻りが増えます。

 

次回は、

どこまで自分で判断し、どの時点で監督へ確認するのか

を整理していきます。

⛑️保安全に⛑️