
お疲れ様です。
前回は、「どこまで職人が自分で判断し、どの時点で監督へ確認するのか」という確認のズレを整理しました。
その後、自分で判断してよい範囲と、監督へ確認する条件を伝えてみて、何か変化はありましたか?

以前より、細かな確認は減ったと思います。
職人も、図面や施工要領の範囲内であれば、自分で判断して進めるようになりました。

それはよかったですね。
では、予定していた作業は、以前より終わるようになりましたか?

作業自体は進むようになりました。
ただ、職人から「終わりました」と報告を受けて確認に行くと、まだ手直しが必要なことがあります。

例えば、どのようなことが残っていますか?

配線は終わっていても、結束や表示が終わっていなかったり、清掃や写真が残っていたりします。
本人は作業が終わったと思っていますが、こちらから見ると、まだ次工程へ渡せる状態ではありません。

なるほど。
優先する作業が決まり、途中の判断も職人ができるようになった。
しかし、
「どこまでできれば、その作業を終わったとするのか」が、監督と職人でそろっていないということですね。

そうです。
こちらとしては、そこまで含めて完了だと思っています。
でも職人からすると、施工が終われば完了だと思っているようです。

今回の目的は、職人にもっと細かく作業してもらうことではありません。
監督と職人の間で、どの状態を「完了」とするのかをそろえることです。
第3回目 完成基準のズレを整理する

現場では、職人から「終わりました」と報告を受けると、その作業が完了したように見えます。
しかし、監督が確認すると、
- 結束や固定が終わっていない
- 回路表示が付いていない
- 墨や養生が残っている
- 施工写真を撮っていない
- 工具や材料が片付いていない
- 清掃が終わっていない
- 試験や確認が終わっていない
- 次工程へ伝える内容が整理されていない
といったことが残っている場合があります。
どれも、本人が手を抜こうとして残したとは限りません。
むしろ、本人は、
「配線は通し終わった」
「器具は取り付けた」
「頼まれた施工は終わった」
と考えて、完了報告をしています。
だからこそ、問題が見えにくくなります。
職人は、任された作業を終えたつもりでいる。
監督は、まだ次工程へ渡せる状態ではないと考えている。
このようなときは、作業の丁寧さを注意する前に
何をもって、その作業を完了とするのかを確認する必要があります。

それでは、現場を例にして確認してみましょう。
職人から「終わりました」と報告された作業は何でしたか?

3階の幹線配線です。

職人は、どの状態を見て「終わった」と判断したのでしょうか?

幹線を盤の近くまで配線し終わったので、完了だと思ったようです。

監督が確認したとき、何が残っていましたか?

ケーブルの結束が途中でした。
回路表示も付いていませんでした。
それから、貫通部の処理と施工写真も残っていました。
それから・・・

その状態で、翌日の結線作業へ入ることはできましたか?

できませんでした。
朝から残っていた作業を片付けてから、結線に入りました。

そうすると、今回見直したいのは
「職人の作業が雑だったこと」だけではありません。
職人が考える完了と、監督が求める完了が違っていたことを整理する必要があります。

確かに、こちらは表示や写真まで含めて終わりだと思っていますが、そこまで具体的には伝えていませんでした。
「何を施工したか」より「次へ渡せる状態か」を見る
現場で完成基準のズレを確認するとき、施工した部分だけを見てしまうと
「なぜ、そこまでやっていないのか」
「言わなくても分かるだろう」
と、イライラしやすくなります。
しかも、施工の有無だけを見ても、その作業が本当に完了しているかは分かりません。
大切なのは
次の人や次の工程が、そのまま仕事を始められる状態になっているかを見ることです。
今回の例を整理すると、次のようになります。
| 職人が終わったと思った状態 | 監督が求めていた状態 | 結果 |
| 幹線を盤の近くまで配線した | 結束・表示・貫通処理・写真まで終わっている | 翌朝に残工事が発生した |
| 施工そのものが終わった | 次工程へそのまま渡せる | 結線作業の開始が遅れた |
| 自分の作業が終わった | 周囲の片付けや報告まで終わった | 監督が追加確認と指示を行った |
ここまで整理すると、問題は
「職人が最後まで仕事をしなかった」ということだけではありません。
本当の問題は
作業をした状態と、次工程へ渡せる状態が同じだと考えられていなかったことです。
つまり今回起きていたのは、作業能力だけの問題ではなく
どこまでできれば完了なのかという「完成基準のズレ」だと分かります。
本人は、なぜ「終わった」と判断したのか
ここで、すぐに
「最後までやれ」
「こんな状態で終わりなわけがない」
「前にも言っただろう」
と注意しても、同じことが繰り返される可能性があります。
なぜなら、本人の中では「終わった」と判断した基準があるからです。

その職人は、なぜ幹線を配線した時点で「終わった」と報告したのでしょうか?

本人は、頼まれたのは幹線配線だと思っていたようです。
ケーブルを通せば、作業は終わりだと考えていました。

結束や表示、写真については、どのように考えていたのでしょうか?

あとで誰かがやると思っていたようです。
写真についても、監督が撮るものだと思っていたみたいです。

そうすると、本人は途中で投げ出したつもりではなく
「自分が任された範囲は終わった」
「残りは別の作業だ」
「施工が終われば完了だ」
と考えていたのかもしれません。

確かに、どこまで本人に任せたのか、はっきり伝えていませんでした。

そうですね。
本人にとっては、頼まれた仕事を終えたつもりだった可能性があります。
完了と判断する基準は、人によって違う
同じ作業を任せても、どこまで行えば完了と考えるかは、人によって違います。
例えば
| 品質を大切にする人 | 細かな納まりまで整い、手直しがない状態 |
| 周りとの関係を大切にする人 | 次の人が困らず、引き継げる状態 |
| 成果を大切にする人 | 目に見える施工が終わった状態 |
| 納得して進めたい人 | 自分が満足できる仕上がりになった状態 |
| 慎重に考える人 | 内容を確認し、記録まで整理できた状態 |
| 安全を重視する人 | 不安な点がなく、監督の確認を受けた状態 |
| 効率や可能性を重視する人 | 主要部分を終え、次の作業へ移れる状態 |
| 自分で判断したい人 | 自分が担当した範囲をやり切った状態 |
| 周囲との調和を大切にする人 | 周りから問題を言われず、作業を離れられる状態 |
どれが正しく、どれが間違っているという話ではありません。
それぞれに、その人なりの仕事の区切りがあります。
ただし、本人が完了だと思う状態と、監督が次工程へ渡せると判断する状態が違えば
「終わったと聞いたのに、まだ残っている」
「そこまでやるとは聞いていない」
というズレが起きます。
今回のズレの正体

今回、監督が求めていた完了は
幹線の配線だけでなく、結束、表示、貫通処理、写真、片付けまで終わり、翌日の結線作業へ入れる状態でした。
一方で職人が考えていた完了は
幹線を所定の位置まで配線し、自分の施工部分が終わった状態でした。
どちらも、本人なりの完了の考え方です。
問題は、職人が途中で作業をやめたことだけではありません。
監督と職人の間で、
- どこまでが今回の作業範囲なのか
- 何ができれば完了なのか
- 誰が確認するのか
- 写真や表示は誰が行うのか
- 次工程へ渡せる状態とは何か
がそろっていなかったことです。
つまり今回の問題は
職人の責任感が足りないことではなく、完了の基準が共有されていなかったことだと考えられます。
今回目指す状態
今回の改善で目指すのは、職人に何でも完璧に仕上げてもらうことではありません。
作業によって、必要な完成度は違います。
仮設作業と本設作業では、求められる仕上がりが違います。
途中確認の段階と、引き渡し前でも基準が違います。
目指すのは
作業を始める前に、どこまでできれば完了なのかを職人が理解している状態です。
具体的には、職人が作業前に
「今日は幹線を通すだけではなく、結束、表示、貫通処理、写真まで行う」
「ここまで終われば、明日の結線担当がすぐ作業できる」
「完了報告は、自分でチェックしてから行う」
と理解できる状態をつくります。
監督が完了報告を受けるたびに、残作業を探して指示し直さなくてもよい状態が理想です。
改善プロセス1
作業の終わりを具体的に伝える
最初に、何をもって完了とするのかを具体的に伝えます。
例えば

3階の幹線配線をお願いします
だけでは、職人によって完了の捉え方が変わります。
そこで

幹線を盤の位置まで配線し、結束、回路表示、貫通処理、施工写真まで終われば完了です
と伝えます。
大切なのは、作業名だけではなく
終わった状態を伝えることです。
「きれいに仕上げて」
「最後までお願いします」
「いつもどおりで」
といった言葉だけでは、人によって受け取り方が変わります。
目で見て確認できる状態まで具体化します。
改善プロセス2
完了条件を分けて伝える
完了条件が多い場合は、いくつかに分けて伝えます。
例えば、次の4つです。
1.施工
- 決められた位置まで配線されている
- 必要な支持や固定が行われている
- 図面と施工要領に合っている
2.確認
- 誤接続や施工漏れがない
- 必要な試験や目視確認が終わっている
- 気になる部分を監督へ報告している
3.記録
- 回路表示が付いている
- 施工写真が撮られている
- 図面変更が記録されている
4.片付け
- 余った材料が整理されている
- 工具やごみが片付いている
- 次の人がすぐ作業できる
このように分けると、職人は
「施工が終われば完了」ではなく
施工・確認・記録・片付けまでが一つの作業だと理解しやすくなります。
改善プロセス3
次工程から逆算して完成基準を決める
完成基準を決めるときは、監督の好みだけで決めるのではありません。
次の人が、何を必要としているのかから考えます。
今回であれば、翌日に結線する職人が
- ケーブルを探さずに済む
- 回路を間違えずに確認できる
- 貫通部の処理をやり直さなくてよい
- すぐに端末処理へ入れる
- 施工状況を写真で確認できる
状態になっている必要があります。
完成基準とは
今の作業を終わらせるための基準ではなく、次の作業を止めないための基準でもあります。
「次の人が、そのまま作業を始められるか」
という視点を入れると、完了の状態が分かりやすくなります。
改善プロセス4
見本や写真で完成状態を共有する
言葉だけで完成状態を伝えても、人によってイメージが違うことがあります。
例えば
「きれいに結束する」
「表示を分かりやすく付ける」
「整理しておく」
という言葉は、受け取り方が曖昧です。
そのため、
- 過去の良い施工写真を見せる
- 現場で一か所だけ見本をつくる
- 図面に完成位置を書き込む
- 良い例と悪い例を並べる
- チェック表を使う
といった方法で、完成状態を目で見えるようにします。
例えば

この盤の左側と同じ間隔で結束してください
表示の向きと位置は、この写真に合わせてください
と伝えます。
言葉の説明だけでなく
同じ完成イメージを共有することが重要です。
改善プロセス5
完了報告の前に本人が確認する
職人が作業を終えるたびに、監督がすべて確認して回ると、監督の仕事が増えます。
そこで、完了報告の前に、本人が確認する項目を決めます。
例えば、
- 図面どおりに施工できているか
- 支持や固定に漏れがないか
- 表示が付いているか
- 写真を撮ったか
- 清掃と片付けが終わったか
- 次工程へ伝えることがないか
を確認してもらいます。
職人から
「終わりました」と報告を受けるのではなく
「配線、結束、表示、貫通処理、写真まで確認しました。完了です」
と報告してもらいます。
本人が完成基準を使って確認することで、監督が一から残作業を探す必要が減ります。
改善プロセス6
完成基準を途中で確認する
完成基準は、作業の最後だけ確認すればよいとは限りません。
長い作業や手直しが難しい作業では、途中で一度確認します。
例えば
- 最初の一か所を施工した時点
- 材料をすべて加工する前
- 天井や壁で隠れる前
- 同じ施工を繰り返す前
- 作業の半分が終わった時点
で確認します。
最初の一か所が基準と違っていれば、早い段階で修正できます。
作業がすべて終わってから
「イメージと違う」と分かれば、大きな手直しになります。
完成基準は、最後に合否を決めるためだけではなく
作業の途中で方向をそろえるために使うものでもあります。
改善プロセス7
作業ごとに必要な完成度を決める
すべての仕事を、常に100点に仕上げる必要があるとは限りません。
現場では、作業の目的や段階によって、必要な完成度が変わります。
例えば
仮施工
- 位置やルートを確認できればよい
- あとで変更できる状態にしておく
途中確認
- 施工方法や納まりを監督が判断できればよい
- 隠れる前の状態を写真に残す
本施工
- 図面、品質、安全の基準を満たしている
- 表示や固定まで完了している
引き渡し前
- 清掃、試験、記録、是正まで完了している
- ほかの人が見ても判断できる
完成基準を決めずに
「もっときれいに」
「まだ足りない」
と伝えると、職人はどこまで行えば終わるのか分からなくなります。
今回必要な完成度を伝えることで、やりすぎと不足の両方を防げます。
現場での声かけ例
作業を任せる場合

今日は、3階の幹線配線をお願いします。
完了は、ケーブルを盤の位置まで通した状態ではありません。
結束、回路表示、貫通処理、施工写真、周囲の片付けまで終われば完了です。
明日の結線担当が、朝からそのまま作業に入れる状態にしてください。

分かりました。
配線だけではなく、表示と写真、片付けまでですね。

はい。終わったら、その5点を確認してから報告してください。
「終わりました」と報告された場合

3階の幹線配線、終わりました。

ありがとうございます。
完了条件を一緒に確認しましょう。
結束は終わっていますか?

はい

回路表示と貫通処理はどうですか?

回路表示がまだ残っています。

分かりました。
今回の完了は、回路表示と写真まで含みます。
そこまで終わったら、もう一度報告してください。
本人が施工だけで完了だと思っていた場合

配線を終わらせてくれたことは助かります。
ただ、今回の作業は、配線を通すところまでではありません。
明日の結線担当が、そのまま作業を始められる状態までが完了です。
結束、表示、貫通処理、写真まで終わらせてください。

そこまでが今回の作業だと分かっていませんでした。

こちらの伝え方も足りませんでした。
次からは、作業を始める前に完了条件を一緒に確認しましょう。
注意するときは、本人が考えていた完了を確認する
完成基準がずれたときに
「こんな状態で終わりなわけがない」
「最後まで責任を持て」
「中途半端な仕事をするな」
と伝えると、本人は手を抜いたと決めつけられたように感じます。
しかし、本人は、
「頼まれた施工は終わった」
「自分の担当範囲はここまでだ」
「残りは監督が確認してから行う」
と考えていた可能性があります。
大切なのは
「なぜ、ここで完了だと思ったのか」
を確認したうえで
「今回の完了は、ここまでです」
と具体的に示すことです。
本人の仕事ぶりを否定するのではなく
どの状態を完了とするのかを、監督と職人でそろえることが改善につながります。
おススメのKPI

今回のKPI
今回確認するKPIは
「完了後の手直し件数」です。
完了後の手直し件数とは、職人から完了報告を受けた後に、追加の作業や修正が必要になった件数です。
例えば
- 結束や固定が不足していた
- 回路表示が付いていなかった
- 貫通部の処理が残っていた
- 施工写真を撮っていなかった
- 清掃や片付けが終わっていなかった
- 試験や確認が残っていた
- 次工程へ渡せる状態になっていなかった
といった内容を記録します。
例えば、1週間に10件の完了報告があり、そのうち3件で追加の手直しが発生した場合は、
完了後の手直し件数は3件
となります。
この数字を見ることで
「終わったと聞いたのに、まだ作業が残っている」という感覚だけではなく
監督と職人の完成基準が、どれだけずれていたかを確認できます。
手直しが発生した場合は、職人の注意力や責任感をすぐに問題にするのではなく
- 作業範囲を明確に伝えていたか
- 何ができれば完了なのかを共有していたか
- 写真や見本で完成状態を示していたか
- 完了報告の前に本人が確認していたか
- 次工程へ渡せる状態を伝えていたか
を振り返ります。

このKPIは、人を評価するためのものではありません。
監督と職人の完成基準をそろえ、完了後の追加作業や手直しを減らすために使います。
今回のまとめ
優先する作業を決め、確認する条件をそろえても、完成した状態の認識が違えば、現場は前へ進みません。
職人は「終わった」と思っている。
しかし、監督が確認すると、結束、表示、写真、片付けなどが残っている。
このようなときに確認するのは
どこまでできれば、その作業を完了とするのかという基準です。
今回のポイントは、次のとおりです。
- 施工が終わったことと、作業が完了したことを分ける
- 本人が、なぜ完了だと判断したのかを聞く
- 作業名だけでなく、終わった状態を伝える
- 施工、確認、記録、片付けに分けて完了条件を示す
- 次工程がそのまま始められる状態を基準にする
- 写真や見本を使い、完成イメージを共有する
- 完了報告の前に、本人が確認する
- 手直しが難しい作業は、途中で一度確認する
- 作業の目的に合わせて、必要な完成度を決める
- 完了後の手直し件数を数字で確認する
完成基準のズレは
「職人が中途半端な仕事をしているから」
起きるとは限りません。
むしろ、本人は自分が任された仕事を終えたつもりでいることがあります。
監督の役割は、完了報告を受けるたびに不足を探し、追加の指示を出すことではありません。
どこまでが今回の作業なのか。
何ができれば完了なのか。
次工程へ渡せる状態とは何か。
その基準を、作業前に職人とそろえることです。
次回は、5つのズレの4つ目である「教え方のズレ」を取り上げます。
優先順位、確認、完成基準を伝えても
「説明したのに伝わっていない」
「何度教えても同じところで間違える」
「人によって理解の仕方が違う」
ということがあります。
次回は、
どのように伝えれば、職人が理解して動けるのか
を整理していきます。
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