指示した仕事が、なぜ後回しになるのか?

現場監督
現場監督

そこ、今やるところじゃないだろ〜!

先にこっちを終わらせてほしかった!

現場監督として、そんなふうに感じたことはありませんか?

今回の現場は

職長と監督で「優先すること」が違い、指示した仕事が後回しになってしまった現場です。

なぜ後回しになったのか。双方の考えをひも解きながら、優先順位をそろえるヒントを探っていきます。

1. 午前中に終わるはずだった作業

ある日の朝礼

現場監督の鈴木さんが、職長の佐藤さんに伝えました。

現場監督
現場監督

今日は増設盤からEPSまで、幹線ケーブルの配線を進めてください。午前中を目安にお願いします。

職長
職長

わかりました!

職長は、他の職人2名と配線の準備を始めました。

今回配線するケーブルはCVT60。3名で作業を進める予定です。

ところが、準備をしていると、ボード屋さんが声をかけてきました。

ボード屋さん
ボード屋さん

すみません。配線があってボードを貼れないんです。一度見てもらえませんか?

職長は、配線のことなら自分たちで確認しなければと思い、仲間にひと声かけて現場を離れました。

しかし、佐藤さんが抜けたことで、残された2名では予定していた幹線配線を安全に進めることができず、作業が止まってしまいました。

昼になっても、幹線配線は始まっていません。

2. なぜ、別の作業を優先したんだろう?

状況を確認しにきた現場監督の鈴木さんは、職長に尋ねました。

現場監督
現場監督

配線は順調ですか?

職長
職長

まだ取りかかれていません。ボード屋さんに配線を確認してほしいと言われたので、対応していました。

現場監督
現場監督

えっ!午前中に進めてほしいと伝えましたよね?

職長
職長

はい。
でも、ボード屋さんも作業が止まっていたので、先に見たほうがいいと思ったんです。

ここで、さらに問い詰めたくなるかもしれませんが・・・

現場監督
現場監督

なるほど。ボード屋さんの作業が止まっていたから、先に見たほうがいいと思ったんですね。

と、まずは、相手の考えを受け止めてあげましょう。

ここで大切なのは、相手の判断が正しかったと認めることではなく、なぜそう判断したのかを理解しようとすることです。

自分の考えを受け止めてもらえると、相手もそのときの状況や判断した理由を話しやすくなります。

そして、一歩引いて考えてみましょう。

  • 事実:実際に何が起きたのか?
  • 解釈:自分は、その出来事をどう受け取ったのか?

この2つを分けて考えることで、感情だけで判断せず、何が問題だったのかを整理しやすくなります。

反対に、自分の思いだけをぶつけてしまうと、相手は責められていると感じるかもしれません。そうなると、本当の考えを話しにくくなったり、自分を守るための説明が増えたりすることがあります。

本当の理由が分からなければ、同じ問題が繰り返されるかもしれません。

だからこそ、まずは相手の考えを受け止め、何が起きていたのかを一緒に整理する。

そこから、同じことを繰り返さないための改善が始まります。

3. 人によって大切にすることは違う

同じ現場で働いていても、人によって大切にしていることは違います。

例えば、タイプ2には「人の役に立ちたい」「困っている人を助けたい」という思いを大切にしやすい傾向があるとされています。

→ 「人を知る9つのタイプ」

今回の職長が、仮にそのような考え方を大切にする人だったら、どうでしょうか。

ボード屋さんの作業が止まっていると聞いて、先に助けたいと思ったのかもしれません。

現場監督
現場監督

佐藤さんは、困っているボード屋さんの力になろうとしていたんだな。

でも、その結果、幹線配線が止まってしまった。

どうすれば、職長の気持ちを大切にしながら、予定した作業も進められるだろう?

ここで大切なのは、相手の考え方を変えようとすることではありません。

相手が大切にしていることを理解したうえで、現場全体の目的と結びつけることです。

例えば、職長にこんなふうに伝えることもできます。

現場監督
現場監督

ボード屋さんを助けようとしてくれたんですね。

ただ、幹線配線が止まると、ほかの作業にも影響が出るんです。

だから、急な依頼が入ったら、一度私に連絡してください。どちらを優先するか一緒に考えましょう。

職長の大切にしていることを否定せず、現場全体を考えた判断につなげていきます。

ただし、タイプだけで相手の考えを決めつけることはできません。実際に何を大切にしているのかは、本人との会話を通して確かめていきましょう。

では、お互いが現場を進めようとしていたのに、なぜ優先することが違ってしまったのでしょうか?

ここで、仕事の「目的」という視点から考えてみたいと思います。

4. 『目的ドリブンの思考法』から考える

今回、参考にしたのは、望月安迪さんの著書『戦略コンサルタントが大事にしている 目的ドリブンの思考法』です。

この本では、仕事の成果を生み出すために、次の3つをつなげて考えることが重要だと説明されています。

  • 目的(Why):何のために行うのか
  • 目標(What):何を達成するのか
  • 手段(How):どのように達成するのか

私は、この考え方は現場の優先順位を考えるときにも役立つと思います。

今回の幹線配線に当てはめてみます。

目的

次の工程へ予定どおり引き継げるようにする。

目標

午前中を目安に、増設盤からEPSまでの幹線配線を進める。

手段

職人3名で安全に作業を進める。

ここで、監督は気づきました。

現場監督
現場監督

午前中に幹線配線を進めてほしいとは伝えたけど、なぜ優先する必要があるのかまでは伝えていなかったな。

作業内容や時間を指示することは大切です。

しかし、それだけでは、予定外のことが起きたときに、何を優先すればよいのか判断できない場合があります。

何をするのかだけでなく、何のためにするのか。

この目的を共有することで、判断のよりどころが生まれます。

5. 今回の問題を「5つのズレ」で整理する

私は、現場で起きる問題を次の5つに分けて考えています。

  1. 優先順位のズレ:何を先に進めるか
  2. 確認のズレ:どこで確認・相談するか
  3. 完成基準のズレ:どこまでできれば完了か
  4. 教え方のズレ:何をどのように伝えるか
  5. 任せ方のズレ:どこまで任せ、どこから相談するか

今回の中心となるのは、優先順位のズレです。

監督は、幹線配線を優先してほしいと考えていました。

職長は、困っているボード屋さんへの対応を優先したほうがよいと考えました。

このように、「今、何を先にやるべきか」という判断が、人によって違っている状態を、私は「優先順位のズレ」と呼んでいます。

ただ、もう一つ気になることがあります。

現場監督
現場監督

予定外の依頼が入ったとき、どうするかを決めていなかったな。

今回は、優先順位だけでなく、どのタイミングで監督に相談するのかという「確認のズレ」も関係すると考えました。

こうして分けて考えると、改善するべきことが少しずつ見えてきます。

6. どんな状態を目指すのか?

では、今回のような問題を繰り返さないためには、どうすればよいのでしょうか?

監督は考えました。

現場監督
現場監督

予定外の依頼を全部断ればいいのかな?

でも、それでは他業者の作業が止まってしまいます。

大切なのは、依頼を断ることではありません。

予定外の依頼が入ったときに、何を優先するのか判断できる状態をつくることです。

今回のゴールは

「最優先する作業を共有し、予定外の依頼が入ったときは、優先順位を確認してから対応できる状態」

とします。

このゴールを、監督と職長で共有します。

7. 明日からできることとKPI

監督は、翌日の朝礼で伝え方を変えてみることにしました。

現場監督
現場監督

今日は、佐藤さんのチームで幹線配線を進めます。

この作業が遅れると、次の工程にも影響が出るので、今日は幹線配線を最優先にしてください。

もし他業者から急な依頼が入ったら、概要を聞いてその場を離れる前に私へ連絡してください。状況を確認して、対応を決めましょう。

こうして、次の3つを伝えました。

  1. 今日、何を最優先にするのか
  2. なぜ、それを優先するのか
  3. 予定外の依頼が入ったとき、何をするのか

もちろん、安全上の問題や緊急対応が必要な場合は、状況に応じた判断が必要です。

では、この取り組みが現場で使われているか、どうすれば分かるでしょうか?

まさや
まさや

そこで活用したいのがKPIです。

KPIとは、目標に向かって進んでいるかを確認するための指標です。

今回は、次の2つを考えてみます。

① プロセスKPI:予定外の依頼で作業を離れる前に、監督へ連絡できた回数

例えば、1週間で予定外の依頼が5件あり、そのうち4件で作業を離れる前に連絡できたとします。

この場合、連絡できた回数は4回、実施率は80%です。

連絡できなかった1件については、なぜ連絡できなかったのかを振り返ることができます。

② 結果KPI:最優先作業達成率

その日に最優先と決めた作業が、予定した完了ラインまで進んだかを確認します。

例えば、5日間のうち4日達成できたなら、達成率は80%です。

ただし、どちらも数字だけで良し悪しを判断するわけではありません。

「連絡するタイミングは分かりやすかったか?」

「最優先作業の目標は現実的だったか?」

「他業者への対応をどう調整すればよかったか?」

こうしたことを振り返るために使います。

KPIは、人を責めるための数字ではありません。

決めたことが実行できているかを確認し、現場の判断基準や伝え方を見直すためのものです。

記録を続けることで、監督自身の気づきにもつながります。

8. まとめ|指示するだけでなく、目的を共有する

今回、監督は、職長の佐藤さんが指示した仕事を後回しにしたことに困っていました。

しかし、話を聞いてみると、佐藤さんも現場を進めようと考えて行動していました。

問題は、誰が正しいか、間違っているかではありません。

何を優先すべきかという判断基準が、監督と職長の間でそろっていなかったことです。

そして、今回の出来事を通して、監督は一つのことに気づきました。

現場監督
現場監督

何をしてほしいかだけでなく、なぜそれを優先するのかまで伝えることが大切なんだな!

それに、予定外の依頼が入ったときの相談ルールも必要だった!

仕事を任せるということは、ただ作業を指示することではありません。

相手が自分で判断できるように、目的や判断基準を共有することも大切だと考えています。

まずは明日の朝礼で、「今日の最優先作業」と「なぜ、それを優先するのか」 を伝えてみてはいかがでしょうか。

その小さな積み重ねが、職長が育ち、監督が安心して任せられる現場につながっていくと思います。

⛑️保安全に⛑️


参考書籍

望月安迪 著『戦略コンサルタントが大事にしている 目的ドリブンの思考法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

本記事では、書籍の「目的・目標・手段」の考え方を参考に、電気工事現場で起きる優先順位のズレについて独自に解説しました。

サンプルKPI

実際の現場で使えるように、簡単な記録シートを用意しました。

記録する目的は、誰かを評価することではありません。

決めたルールが使われているかを確認し、自分自身の気づきや次の改善につなげるためです。

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