
困ったら聞いてって言ったよね?
「どうして、もっと早く相談してくれなかったんだろう……」
現場監督として、そんなふうに感じたことはありませんか?
今回の現場は
なぜ相談ができなかったのか。
双方の考えをひも解きながら、確認するタイミングをそろえるヒントを探っていきます。
1. 相談が来ないまま、作業が止まっていた
ある日の朝礼
現場監督の鈴木さんが、若手職人の小林君に作業をお願いしました。

今日は、2階の照明器具の取り付けをお願いします。分からないことがあったら、聞いてくださいね。

わかりました!
小林君は、図面を確認しながら作業を進めていました。
ところが、取り付け位置を確認していると、図面の寸法と現場の天井下地の位置が合わないことに気づきました。

あれ? 図面どおりの位置に付けられないな……
もう一度、図面を確認してみよう
小林君は、何度も図面を見直しました。
しかし、どの位置に変更してよいのか判断がつきません。
「監督も忙しそうだし、もう少し自分で考えてみよう」
そうしているうちに、時間だけが過ぎていきました。
しばらくして、現場監督の鈴木さんが様子を見に来ました。
2. なぜ、相談してくれなかったんだろう?

小林君、照明器具の取り付けは順調?

実は、図面と天井下地の位置が合わなくて、取り付け位置をどうすればいいか迷っていました。

えっ! それなら、どうして早く相談してくれなかったの?

すみません。
監督も忙しそうだったので、声をかけづらかったんです……。
ここで
「困ったら聞いてって言っただろう!」
「分からないまま時間を使わないでよ!」
と、言いたくなるかもしれませんが……


なるほど。私が忙しそうだったから、声をかけづらかったんですね。
まずは、相手の考えを受け止めてみましょう。
ここで大切なのは、相談しなかった判断が正しかったと認めることではなく、なぜ相談しなかったのかを理解しようとすることです。
そして、一歩引いて考えてみます。
事実:実際に起きたこと
- 小林君は、図面と現場の位置が合わず、作業を進められなかった。
- 小林君から監督への相談はなかった。
- 小林君は「監督が忙しそうで、声をかけづらかった」と話した。
解釈:監督がどう受け取っていたのか
- 「困ったら聞いてと言ったのに、なぜ聞かないんだろう」
- 「相談することの大切さが分かっていないのかな」
- 「自分で判断できないから、仕事が進まないのかな」
この2つを分けて考えると、見えてくることがあります。
実際には、小林君は監督が忙しそうだと感じ、相談することをためらっていました。

小林君は、相談する気がなかったわけじゃないんだな!
自分が忙しそうにしていたことも、関係していたのかもしれない!
自分の思いだけをぶつけてしまうと、相手は責められていると感じ、本当の考えを話しにくくなることがあります。
本当の理由が分からなければ、同じ問題が繰り返されるかもしれません。
だからこそ、まずは相手の考えを受け止め、何が起きていたのかを一緒に整理することが大切です。
3. 人によって大切にすることは違う
同じ現場で働いていても、人によって大切にしていることは違います。
例えば、タイプ9には「周囲との調和を大切にする」「相手との衝突を避けたい」という傾向があるとされています。
今回の小林君が、仮にそのような考え方を大切にする人だったら、どうでしょうか。
忙しそうにしている監督を見て
「今、話しかけたら仕事の邪魔になるかもしれない」
「もう少し落ち着いてから相談しよう」
と考えたのかもしれません。

小林君は、自分に気を遣っていたのかもしれないな。
でも、その結果、相談できずに作業が止まってしまった!
どうすれば、忙しいときでも安心して相談してもらえるだろう?
ここで大切なのは、相手の性格を変えようとすることではありません。
相手が大切にしていることを理解したうえで、相談しやすい環境を整えることです。
例えば、小林君にこんなふうに伝えることもできます。

小林君、忙しそうに見えたから、声をかけづらかったんだね。
でも、図面と現場が違うときは、遠慮しないで相談してほしいんです!
そのまま進めると、あとで手戻りになるかもしれないからね。
私が電話中だったり、すぐに対応できなかったりするときは、どう連絡するかも一緒に決めておこう!
小林君の気遣いを否定せず、必要なときには相談してよいことを伝えます。
では、「困ったら聞いて」と伝えていたのに、なぜ相談できなかったのでしょうか?
ここで、相談しやすい職場づくりという視点から考えてみたいと思います。
ここで、参考書籍の考え方を取り入れてみましょう。
4. 『心理的安全性のつくりかた』から考える

今回、参考にしたいのは、石井遼介さんの著書『心理的安全性のつくりかた』です。
この本では、心理的安全性の高いチームをつくるための要素として、次の4つが紹介されています。
- 話しやすさ:分からないことや問題を伝えやすい
- 助け合い:困ったときに周囲へ助けを求められる
- 挑戦:失敗を恐れすぎず、新しいことに取り組める
- 新奇歓迎:自分と違う考え方や意見を受け入れられる
私は、この中でも特に「話しやすさ」と「助け合い」が、今回の現場に関係していると思いました。
例えば、監督が「困ったら聞いて」と伝えていたとしても、若手職人が「忙しそうだから声をかけづらい」と感じていたら、相談することをためらってしまうかもしれません。
ここで、監督は考えました。

困ったら聞いてとは言ったけど、小林君が相談しやすい状態だったのかな?
自分が忙しいときは、どうすればいいかも伝えていなかったな……
相談しやすい現場をつくるには、ただ「何でも聞いて」と伝えるだけでは十分ではないのかもしれません。
「相談しても大丈夫」と思えること。そして、いつ、どのように相談すればよいかが分かること。
私は、この両方を整えることが大切だと考えています。
5. 今回の問題を「5つのズレ」で整理する

私は、現場で起きる問題を次の5つに分けて考えています。
- 優先順位のズレ:何を先に進めるか
- 確認のズレ:どこで確認・相談するか
- 完成基準のズレ:どこまでできれば完了か
- 教え方のズレ:何をどのように伝えるか
- 任せ方のズレ:どこまで任せ、どこから相談するか
今回の中心となるのは、確認のズレです。
監督は、図面と現場が違えば、すぐに相談してほしいと考えていました。
一方、小林君は、忙しそうな監督に声をかけるのをためらっていました。
つまり、監督は「困ったら聞いて」と伝えれば相談してくれると思っていたのに、小林君は「今は声をかけづらい」と考えていたのです。
ここで、もう一つ気になることがあります。

そういえば、どんなときに相談してほしいかも、具体的に伝えていなかったな。
忙しくて対応できないときの連絡方法も決めていなかった……
今回は、相談するタイミングだけでなく、相談するためのルールが十分に共有されていなかったことも考えられます。
「どのタイミングで確認・相談するか」という判断が、人によって違っている状態。
これを、私は「確認のズレ」と呼んでいます。
ここで大切なのは、相談しなかった小林君だけを問題にするのではなく、相談しやすい環境や判断基準が整っていたかを見直すことです。
こうして分けて考えると、改善するべきことが見えてきます。
6. どんな状態を目指すのか?
では、今回のようなことを繰り返さないためには、どうすればよいのでしょうか?
監督は考えました。

自分がいつでも相談に乗れるようにすればいいのかな?
でも、監督にも現場の管理や他業者との打ち合わせなど、さまざまな仕事があります。
いつでも手を止めて対応できるとは限りません。
だからといって、若手職人が相談をためらい、作業を止めたままにしてしまうのも困ります。
大切なのは、監督が常にそばにいることではありません。
必要なときに、迷わず相談できる状態をつくることです。
今回のゴールは
「相談が必要な場面と連絡方法を共有し、監督が忙しいときでも、若手職人が安心して確認できる状態」
とします。
このゴールを、監督と小林君で共有します。
7. 明日からできることとKPI

監督は、翌日の朝礼で伝え方を変えてみることにしました。

小林君、今日は昨日の続きで、2階の照明器具の取り付けをお願いします。
図面と現場が合っているところは、決めた手順で進めてください。
ただし、図面と現場が違う場合は、自分で位置を変えずに、取り付ける前に相談してください。
私が忙しそうにしていても、遠慮しなくて大丈夫です。
電話中などですぐに対応できないときは、社内の連絡手段で状況を送ってください。返事があるまでは、その箇所の取り付けは進めないようにしましょう。
こうして、次の3つを伝えました。
- どんなときに相談するのか
- 監督が忙しいときは、どう連絡するのか
- 返事を待つ間は、どうするのか
そして、最後に小林君へ確認しました。

もし、図面と現場の位置が違っていて、私が電話中だったらどうする?。

取り付ける前に状況を連絡します。
返事が来るまでは、その部分の作業を進めず、ほかにできる作業がないか確認します。
こうして、お互いの認識をそろえました。
もちろん、安全に関わる問題は、必要な作業停止や報告を優先します。
では、この取り組みが現場で使われているか、どうすれば分かるでしょうか?
そこで活用したいのがKPIです。
KPIとは、目標に向かって進んでいるかを確認するための指標です。
今回は、次の2つを考えてみます。
① プロセスKPI:相談が必要な場面で、決めた方法で連絡できた回数
例えば、1週間で相談が必要な場面が5件あり、そのうち4件で決めた方法による連絡ができたとします。
この場合、連絡できた回数は4回、実施率は80%です。
連絡できなかった1件については、
「忙しそうで、声をかけづらかったのか?」
「連絡する方法が分からなかったのか?」
「相談が必要な場面だと認識していなかったのか?」
こうしたことを振り返ります。
② 結果KPI:判断待ちによる作業停止時間
判断に迷い、作業を進められなかった時間を記録します。
例えば、改善前は1週間で合計120分あった判断待ち時間が、改善後は60分になったとします。
ただし、時間が減っただけで、改善したと判断するわけではありません。
「必要な相談はできていたか?」
「監督からの返事が遅くなっていなかったか?」
「勝手に判断して、手戻りが起きていないか?」
こうしたことも一緒に確認します。
KPIは、人を責めるための数字ではありません。
決めたルールが使われているかを確認し、相談しやすい環境や伝え方を見直すために使います。
そして、KPIを小林君に渡すときも、記録する目的を伝えます。

小林君が安心して仕事を進められるように、私の伝え方や連絡方法も見直したいんです。
だから、相談できた回数と、判断待ちで止まった時間を、一緒に確認してみませんか?
小林君が気にかけていた「忙しい監督に迷惑をかけたくない」という思いを否定せず、相談することが現場全体のためになると伝えます。
記録を続けることで、若手職人だけでなく、監督自身の気づきにもつながります。
8. まとめ|「困ったら聞いて」だけでは伝わらない
今回、監督は「困ったら聞いて」と伝えていたのに、小林君から相談が来ないことに困っていました。
しかし、話を聞いてみると、小林君は監督が忙しそうだったため、声をかけることをためらっていました。
問題は、誰が正しいか、間違っているかではありません。
相談するタイミングや方法が、監督と若手職人の間でそろっていなかったことです。
そして、今回の出来事を通して、監督は一つのことに気づきました。

困ったら聞いてと言うだけでは、相談しやすいとは限らないんだな!
どんなときに、どうやって相談すればいいかまで伝えることが大切なんだ!
仕事を任せるということは、ただ作業を指示することではありません。
相手が安心して判断し、必要なときに相談できるように、環境や判断基準を整えることも大切だと考えています。
まずは明日の朝礼で「どんなときに相談してほしいか」と「忙しいときの連絡方法」を伝えてみてはいかがでしょうか。
その小さな積み重ねが、若手職人の成長を支え、監督が安心して任せられる現場につながっていくと思います。
⛑️保安全に⛑️
参考書籍
石井遼介 著『心理的安全性のつくりかた』(日本能率協会マネジメントセンター)
本記事では、書籍で紹介されている心理的安全性の考え方を参考に、電気工事現場で起きる「確認のズレ」について独自に解説しました。書籍本文の直接引用は行っていません。
サンプルKPI
実際の現場で使えるように、今回の記録項目を整理しました。
プロセスKPI:相談が必要な場面で、決めた方法で連絡できた回数
結果KPI:判断待ちによる作業停止時間
記録する目的は、誰かを評価することではありません。
決めたルールが使われているかを確認し、自分自身の気づきや次の改善につなげるためです。
