「自分でやった方が早い」それでも任せるには?

現場監督
現場監督

もういいよ。自分でやった方が早いから!

「でも、このままでは、いつまでたっても仕事を任せられないな……」

現場監督として、そんなふうに感じたことはありませんか?

今回の現場は

監督が職長に段取りを任せようとしたものの、思うように進まず、結局自分で仕事を引き取ってしまった現場です。

なぜ仕事を任せられなかったのか。双方の考えをひも解きながら、職長が自分で判断できるようになる任せ方のヒントを探っていきます。

1. 任せたはずの段取りが戻ってきた

ある日の現場

現場監督の鈴木さんは、翌日に予定している3階の照明配線工事について、職長の佐藤さんに段取りをお願いしました。

現場監督
現場監督

佐藤さん、明日の3階の照明配線の段取りをお願いします。

職長
職長

わかりました!

佐藤さんは図面を確認しながら、必要な材料や作業人数を考え始めました。

しばらくすると、佐藤さんが監督のところへ来ました。

職長
職長

鈴木さん、明日の作業人数は3人で大丈夫ですか?

現場監督
現場監督

そうですね。3人で考えてください。

また、しばらくすると……

職長
職長

材料なんですが、追加で必要なものはありますか?

現場監督
現場監督

図面を確認して、必要なものを拾い出してもらえますか?

さらに、別の確認も入りました。

職長
職長

天井内で設備屋さんと作業が重なりそうなんですが、どうしますか?

監督の鈴木さんは、工程の調整や書類の確認など、ほかにも仕事を抱えていました。

何度も確認が入るうちに、自分の仕事が進まなくなってしまいました。

そして、ついに……

現場監督
現場監督

もういいよ。自分でやった方が早いから、段取りはこっちでやるよ!

職長
職長

すみません。お願いします……

結局、鈴木さんが材料を拾い出し、作業人数や他業者との調整も進めることになりました。

佐藤さんは、翌日の作業指示を待つことになってしまいました。

2. なぜ、自分でやってしまうんだろう?

仕事を引き取ったあと、鈴木さんは考えました。

現場監督
現場監督

任せたのに、何度も確認が入ると自分の仕事が進まない。

でも、結局自分でやっていたら、いつまでたっても任せられないよな……

ここで

「職長なんだから、自分で考えてほしい!」

「そんなことまで聞かないでほしい!」

と、言いたくなるかもしれませんが……

現場監督
現場監督

佐藤さん、何度も確認してくれたけど、どの部分で判断に迷っていたんですか?

職長
職長

段取りを任せてもらったんですが、どこまで自分で決めていいのか分からなかったんです。

特に、人数や他業者との調整は、勝手に決めていいのか迷ってしまって……

現場監督
現場監督

なるほど。どこまで自分で判断していいか分からなかったんですね。

まずは、相手の考えを受け止めてみましょう。

ここで大切なのは、確認が多かったことを責めるのではなく、なぜ確認が必要だったのかを理解しようとすることです。

そして、一歩引いて考えてみます。

事実:実際に起きたこと

  • 監督は、職長に翌日の段取りを任せた。
  • 職長から、作業人数・材料・他業者との調整について確認が入った。
  • 監督は途中で仕事を引き取り、自分で段取りを進めた。

解釈:監督がどう受け取っていたのか

  • 「職長なのに、自分で判断できないのかな」
  • 「何度も聞かれるなら、自分でやった方が早い」
  • 「まだ仕事を任せるのは難しいのかもしれない」

この2つを分けて考えると、見えてくることがあります。

現場監督
現場監督

佐藤さんは、考えていなかったわけじゃないんだな。

どこまで任されているのか分からなかったから、確認していたのかもしれない。

自分の思いだけで判断してしまうと、相手が何に迷っているのかが見えなくなってしまいます。

任せた仕事が戻ってくる原因は、相手の能力だけにあるとは限りません。

まずは、どこに問題があったのかを一緒に整理することが大切です。

3. 人によって大切にすることは違う

同じ仕事を任されても、人によって大切にしていることは違います。

例えば、タイプ6には「安心して確実に進めたい」「間違いを防ぎたい」という思いを大切にしやすい傾向があるとされています。

→ 人を知る9つのタイプ

今回の佐藤さんが、仮にそうした考え方を大切にする人だったら、どうでしょうか。

作業人数や材料の数量を間違えないように、監督へ確認していたのかもしれません。

また、他業者との調整を自分で決めてよいのか、不安に感じていた可能性もあります。

現場監督
現場監督

佐藤さんは、間違えないように確認していたのかもしれないな。

でも、何でも自分に確認していたら、いつまでも仕事を任せられない。

どうすれば、安心して自分で判断してもらえるだろう?

ここで大切なのは、相手の考え方を変えようとすることではありません。

相手が何を大切にしているのかを理解したうえで、自分で判断できる範囲を整えることです。

例えば、こんなふうに聞いてみます。

現場監督
現場監督

佐藤さん、段取りの中で、自分で決められそうなことはどこまでありますか?

職長
職長

材料の拾い出しや作業の順番は、自分で考えられると思います。

ただ、他業者との調整や人数の変更は、確認したほうがいいと思っていました。

現場監督
現場監督

なるほど。じゃあ、その部分を整理してみようか!

こうして話してみると、職長が自分で判断できることと、監督の確認が必要なことが見えてきます。

ただし、タイプだけで相手の考えを決めつけることはできません。実際に何を大切にしているのかは、本人との会話を通して確かめていきましょう。

では、自分でやった方が早いと思ってしまう仕事を、どうすれば職長に任せられるのでしょうか?

ここで、仕事を任せることについて、参考になる書籍を紹介します。

4. 『部下をもったらいちばん最初に読む本』から考える

今回、参考にしたのは、橋本拓也さんの著書『部下をもったらいちばん最初に読む本』です。

特に参考にしたのは、第4章「マネジャーが自分の仕事を実行するための『委任する技術』」です。

この章では、仕事を抱え込まず、人に仕事を任せるための考え方が扱われています。

その中で、今回の現場に取り入れたいのが、仕事を任せる意味や、期待する成果、途中での確認を明確にするという考え方です。

私は、この考え方は現場監督が職長を育てるときにも役立つと思います。

今回の段取りに当てはめてみましょう。

鈴木さんは「明日の段取りをお願いします」と伝えました。

しかし、何を任せて、何を監督が判断するのかまでは伝えていませんでした。

そこで、次のように整理してみます。

① なぜ任せるのか

職長自身が段取りを考え、現場で判断できる力を身につけるため。

② 何を任せるのか

図面を確認し、必要材料の拾い出しと作業手順の検討を行う。

③ どこまで判断してよいのか

決められた条件の範囲内では職長が考え、人数の変更や他業者との工程調整は監督に相談する。

④ いつ確認するのか

段取りを始める前に任せる範囲を共有し、午後の打ち合わせで途中経過を確認する。

ここで、監督は気づきました。

現場監督
現場監督

仕事を任せたつもりだったけど、何をどこまで任せるのかは、はっきり伝えていなかったな!

それに、途中で確認するタイミングも決めていなかった……

もちろん、監督が自分で段取りをした方が、その日は早く終わるかもしれません。

しかし、毎回監督が引き取っていては、職長が自分で考える機会は増えません。

今の仕事を早く終わらせることと、将来、安心して任せられる状態をつくることは、同じではないのです。

私は、職長を育てるためには、仕事を渡すだけでなく、判断するための条件を整えることが大切だと考えています。

5. 今回の問題を「5つのズレ」で整理する

私は、現場で起きる問題を次の5つに分けて考えています。

  1. 優先順位のズレ:何を先に進めるか
  2. 確認のズレ:どこで確認・相談するか
  3. 完成基準のズレ:どこまでできれば完了か
  4. 教え方のズレ:何をどのように伝えるか
  5. 任せ方のズレ:どこまで任せ、どこから相談するか

今回の中心となるのは、任せ方のズレです。

監督は、翌日の段取りを職長自身で考えて進めてほしいと思っていました。

一方、職長は、どこまで自分で判断してよいのか分からず、監督へ確認していました。

このように、「どこまで自分で判断し、どこから相談するのか」という認識が、人によって違っている状態を、私は「任せ方のズレ」と呼んでいます。

ここで、もう一つ気になることがあります。

現場監督
現場監督

そういえば、途中でどのタイミングで確認するかも決めていなかったな。

今回は、任せ方だけでなく、確認するタイミングが共有されていなかったという「確認のズレ」も関係していました。

こうして分けて考えると、改善するべきことが少しずつ見えてきます。

6. どんな状態を目指すのか?

では、今回のように仕事を引き取ってしまうことを減らすためには、どうすればよいのでしょうか?

監督は考えました。

現場監督
現場監督

だったら、次からは全部佐藤さんに任せればいいのかな?

でも、任せる範囲を決めず、何も確認しなければ、単なる丸投げになってしまうかもしれません。

反対に、細かいところまで監督が判断してしまうと、職長が自分で考える機会がなくなってしまいます。

大切なのは、全部任せることでも、全部自分でやることでもありません。

職長が自分で判断できる範囲を明確にし、必要なときには監督が支援できる状態をつくることです。

今回のゴールは

「職長が任された範囲で自分で段取りを考え、判断が必要な場面では監督に相談しながら、予定した段取りを完成させられる状態」

とします。

このゴールを、監督と職長で共有します。

7. 明日からできることとKPI

監督は、次の段取りを依頼するときに、伝え方を変えてみることにしました。

現場監督
現場監督

佐藤さん、明日の3階の照明配線の段取りをお願いします。

今回は、佐藤さんに材料の拾い出しと作業手順の検討を任せたいと思っています。

今後、現場の段取りをもっと任せられるようになってほしいからです。

必要な材料と作業の順番を整理して、今日の15時に一緒に確認しましょう。

人数の変更や他業者との工程調整が必要になりそうなら、決める前に私へ相談してください。

職長
職長

わかりました。材料と作業手順は自分で考えて、人数や他業者との調整は相談するんですね。

現場監督
現場監督

そうです。途中で迷ったことがあれば、15時を待たずに聞いてください。

こうして、次の4つを共有しました。

  1. なぜ、その仕事を任せるのか
  2. 何をどこまで任せるのか
  3. どんなときに相談するのか
  4. いつ、何を確認するのか

そして15時。

佐藤さんが、考えた段取りを鈴木さんに見せました。

職長
職長

材料は拾い出しました。明日はこの順番で進めたいと思っています!

ただ、設備屋さんと作業場所が重なるので、そこは調整が必要です。

現場監督
現場監督

なるほど。材料と手順は整理できていますね。

設備屋さんとの調整は、一緒に確認して決めましょう。

鈴木さんは、すべてを自分でやり直すのではなく、佐藤さんが考えた段取りをもとに、必要な部分だけ支援しました。

こうして、職長が自分で考える機会を残すことができました。

では、この取り組みが現場で使われているか、どうすれば分かるでしょうか?

そこで活用したいのがKPIです。

KPIとは、目標に向かって進んでいるかを確認するための指標です。

今回は、次の2つを考えてみます。

① プロセスKPI:任せる範囲と相談条件を共有し、途中確認できた回数

例えば、1週間で段取りを任せる機会が5回あり、そのうち4回で、任せる範囲と相談条件を伝え、決めた途中確認まで実施できたとします。

この場合、実施回数は4回、実施率は80%です。

実施できなかった1回については、

「任せる範囲が曖昧だったのか?」

「途中確認の時間を決めていなかったのか?」

「監督が忙しくて確認できなかったのか?」

こうしたことを振り返ります。

② 結果KPI:職長が任された範囲の段取りを、決めた基準で完成できた件数

例えば、1週間で5件の段取りを任せ、そのうち4件で、職長が必要な材料や作業手順を整理し、決めた基準を満たせたとします。

この場合、達成件数は4件、達成率は80%です。

ただし、監督へ相談したから未達成になるわけではありません。

必要な相談をしながら、任された範囲の仕事を完成できたかを確認します。

数字だけを見るのではなく、

「職長が自分で判断できることは増えたか?」

「監督が仕事を引き取らず、支援することができたか?」

「任せる範囲は適切だったか?」

こうしたことも一緒に振り返ります。

KPIは、人を責めるための数字ではありません。

職長がどこまで判断できるようになったかを確認し、監督の任せ方を改善するために使います。

そして、KPIを佐藤さんに渡すときも、記録する目的を伝えます。

現場監督
現場監督

佐藤さんが、自分で段取りを考えられる範囲を少しずつ増やしていきたいと思っています。

だから、どこまで任せられたか、どこで確認が必要だったかを、一緒に振り返ってみませんか?

職長
職長

それなら、自分がどこまでできるようになったかも分かりますね。

こうして、職長の成長を確認しながら、任せる範囲を少しずつ広げていきます。

8. まとめ|「自分でやった方が早い」から一歩進む

今回、監督は職長に段取りを任せたものの、何度も確認が入り、結局自分で仕事を引き取ってしまいました。

しかし、職長の話を聞いてみると、どこまで自分で判断してよいのか分からず、確認していたことが分かりました。

問題は、誰が正しいか、間違っているかではありません。

「どこまで任せ、どこから相談するのか」という判断基準が、監督と職長の間でそろっていなかったことです。

そして、今回の出来事を通して、監督は一つのことに気づきました。

現場監督
現場監督

自分でやった方が早いと思って、何でも引き取っていたな!

でも、それでは佐藤さんが自分で考える機会を減らしてしまう。

任せる範囲と確認するタイミングを決めることが大切なんだ!

現場では、今でも「自分でやった方が早い」と感じる場面がたくさんあります。

実際に、自分で進めた方が、その日の仕事は早く終わるかもしれません。

しかし、毎回自分でやっていては、いつまでも自分が判断し続けることになります。

それでは、監督の仕事も減らず、職長が経験を積む機会も増えません。

仕事を任せることは、ただ自分の仕事を減らすことではありません。

職長が自分で考え、判断できる範囲を増やしていくことでもあります。

もちろん、すべてを一度に任せる必要はありません。

まずは、任せられる仕事を一つ選び、どこまで任せるかを決める。

そして、途中で確認しながら、できる範囲を少しずつ広げていく。

「自分でやった方が早い」から、「次は任せられるようにする」へ。

まずは明日、いつも自分でやっている仕事の中から、一つだけ職長に任せてみてはいかがでしょうか。

その小さな積み重ねが、職長の判断力を育て、監督が安心して仕事を任せられる現場につながっていくと思います。

⛑️保安全に⛑️


参考書籍

橋本拓也 著『部下をもったらいちばん最初に読む本』(アチーブメント出版)

参考にした箇所

第4章「マネジャーが自分の仕事を実行するための『委任する技術』」

仕事を任せる意味、期待する成果、任せる範囲、途中での確認という考え方を参考に、電気工事現場で起きる「任せ方のズレ」について独自に解説しました。

書籍本文の直接引用は行っていません。

サンプルKPI

今回の記録項目は次の2つです。

プロセスKPI:任せる範囲と相談条件を共有し、途中確認できた回数

結果KPI:職長が任された範囲の段取りを、決めた基準で完成できた件数

記録する目的は、誰かを評価することではありません。

職長が自分で判断できる範囲を確認し、監督自身の任せ方や次の改善につなげるためです。

執筆者

タイトルとURLをコピーしました