
この前、教えてもらったよね?
「どうして、一人でできないんだろう……」
現場監督として、そんなふうに感じたことはありませんか?
今回の現場は
なぜ、教えたはずなのにできなかったのか。双方の考えをひも解きながら、相手が自分でできるようになる教え方のヒントを探っていきます。
1. この前、教えたはずなのに……
ある日の現場
職長の佐藤さんが、若手職人の小林君に金属管の曲げ加工を教えていました。

小林君、今日は配管の曲げ方を教えるから、よく見ていてね。

はい、お願いします!
佐藤さんは、管の寸法を確認し、曲げ工具を使って手際よく加工していきます。

ここで寸法を見て、こうやって曲げるんだよ!
ほら、こんな感じ!

なるほど。わかりました!
佐藤さんは、小林君が理解したと思い、その日は別の作業に戻りました。
数日後・・・
小林君は、一人で配管の曲げ加工を任されることになりました。
ところが、実際にやってみると、曲げ始める位置がうまく決まりません。
何度か加工してみましたが、思っていた寸法にならず、やり直しになってしまいました。
そこへ、現場監督の鈴木さんが様子を見に来ました。

小林君、配管は順調?

すみません。うまく寸法が合わなくて……
監督が職長の佐藤さんに確認すると、以前教えたことが分かりました。
2. なぜ、教えたのにできないんだろう?

佐藤さん、この前、小林君に配管の曲げ方を教えてくれたんですよね?

はい。目の前でやって見せましたし、小林君も『わかりました』と言っていました。

そうだったんですね。小林君、どこが難しかった?

佐藤さんが曲げているのを見て、できそうだと思ったんです!
でも、自分でやってみると、どこから曲げ始めればいいのか分からなくて……
「見ていたんだから、できるはずだろう!」
「一度教えたことは覚えてほしいな!」
と、言いたくなるかもしれませんが……


なるほど。見ているときは分かったけど、実際にやってみると難しかったんですね?
まずは、相手の考えを受け止めてみましょう。
ここで大切なのは、できなかったことを責めるのではなく、何が分かっていて、どこから分からなくなったのかを理解しようとすることです。
そして、一歩引いて考えてみます。
事実:実際に起きたこと
- 職長は、若手職人に配管の曲げ加工を実演した。
- 若手職人は「わかりました」と返事をした。
- 一人で加工すると、曲げ始める位置を判断できず、寸法が合わなかった。
解釈:監督や職長がどう受け取っていたのか
- 「一度教えたのだから、できるはずだ」
- 「しっかり見ていなかったのかな」
- 「覚える気持ちが足りないのかな」
この2つを分けて考えると、見えてくることがあります。

小林君は、教わったことを忘れたわけではないのかもしれないな。
そもそも、見て分かることと、自分でできることは違うのでは?
教えた側の思いだけで判断してしまうと、若手職人がどこでつまずいているのかが見えにくくなってしまいます。
できなかった理由が分からなければ、同じことを何度教えても、繰り返してしまうかもしれません。
だからこそ、まずは相手が何を理解し、何ができないのかを一緒に整理することが大切です。
3. 人によって大切にすることは違う
同じことを教わっても、人によって受け取り方や大切にしていることは違います。
例えば、タイプ5には「物事を十分に理解したい」「知識を身につけてから行動したい」という傾向があるとされています。
今回の小林君が、仮にそうした考え方を大切にする人だったら、どうでしょうか。
ただ作業を見るだけでなく、
「なぜ、この位置から曲げ始めるのか?」
「どうすれば、寸法が合うのか?」
といった仕組みや理由を理解したかったのかもしれません。

小林君は、作業のやり方だけでなく、理由も知りたかったのかもしれないな。
でも、佐藤さんは経験があるから、当たり前のようにできてしまう。
どうすれば、小林君にも分かりやすく伝えられるだろう?
ここで大切なのは、相手の性格を変えようとすることではありません。
相手がどこまで理解しているのかを確認し、その人に合った教え方で考えることです。
例えば、小林君にこんなふうに聞いてみます。

小林君、佐藤さんに教えてもらったとき、どの部分が分かりにくかった?

曲げ方は見ていたんですが、寸法から曲げる位置をどう決めるのかが、よく分からなかったんです!

なるほど。そこをもう少し具体的に教えてもらう必要があったんだね。
このように聞いてみると、何を教え直せばよいのかが見えてきます。
では、どうすれば「見て分かった」を「自分でできる」に変えられるのでしょうか?
ここで、教え方について参考になる書籍を紹介します。
4. 『教える技術』から考える

今回、参考にしたのは、石田淳さんの著書『行動科学を使ってできる人が育つ! 教える技術』です。
特に参考にしたのは、CHAPTER 5「どのくらい教えればいいか」の中にある、次の2つのテーマです。
- 「『わかりました!』をあてにしない」
- 「『わかる』から『できる』に変えるためのサポート」
この2つのテーマから、私は現場の教え方について考えてみました。
「分かった」という返事だけで、本当にできるようになったと判断していないだろうか?
今回の配管作業に当てはめてみます。
職長の佐藤さんは、配管の曲げ加工を実演しました。
若手の小林君は、その作業を見て「わかりました」と答えました。
しかし、小林君自身が加工できるかどうかは、まだ確認していませんでした。
そこで、監督は気づきました。

佐藤さんは、教えていなかったわけじゃないんだな!
でも、小林君が実際にできるかどうかまでは、確かめていなかったのかもしれない!
私は、この考え方を現場に取り入れるなら、次の3つが大切だと思います。
- 見せる:作業の手順やポイントを説明しながら実演する。
- やってもらう:教わった人が実際に作業する。
- 確認する:できたこと、難しかったことを一緒に振り返る。
例えば、配管の曲げ加工なら、職長が見本を見せたあと、若手職人にも実際に加工してもらいます。
その際、曲げる位置をどのように決めたのか、なぜそうしたのかを説明してもらう。
うまくできなかったら、どこで迷ったのかを確認する。
「教えたかどうか」ではなく、「相手ができるようになったかどうか」
ここまで確認することが、現場での教え方には必要だと考えています。
5. 今回の問題を「5つのズレ」で整理する

私は、現場で起きる問題を次の5つに分けて考えています。
- 優先順位のズレ:何を先に進めるか
- 確認のズレ:どこで確認・相談するか
- 完成基準のズレ:どこまでできれば完了か
- 教え方のズレ:何をどのように伝えるか
- 任せ方のズレ:どこまで任せ、どこから相談するか
今回の中心となるのは、教え方のズレです。
職長は、作業を見せて説明すれば、若手職人も理解してできるようになると考えていました。
一方、若手職人は、見ているときは分かったつもりでも、一人で作業するための判断基準までは理解できていませんでした。
このように、「何を、どのように教えればできるようになるのか」という認識が、教える側と教わる側で違っている状態を、私は「教え方のズレ」と呼んでいます。
ここで、もう一つ気になることがあります。

そういえば、佐藤さんに教えることを任せたけど、どこまでできるようになればいいのかは伝えていなかったな・・・
今回は、教え方だけでなく、育成をどこまで任せるのかという「任せ方のズレ」も関係しているかもしれません。
こうして分けて考えると、改善するべきことが見えてきます。
6. どんな状態を目指すのか?
では、今回のような問題を繰り返さないためには、どうすればよいのでしょうか?
監督は考えました。

だったら、できるようになるまで何度も見せればいいのかな?
でも、それだけでは、いつまでも教える人が必要になってしまうかもしれません。
大切なのは、何度も見せることではありません。
若手職人が作業のポイントを理解し、実際に自分でできるようになることです。
今回のゴールは
「若手職人が、配管の曲げ加工の手順と判断のポイントを理解し、職長の確認を受けながら、決めた寸法に加工できる状態」
とします。
このゴールを、監督・職長・若手職人の3人で共有します。
7. 明日からできることとKPI

監督の鈴木さんは、職長の佐藤さんと教え方を相談してみることにしました。

佐藤さん、小林君に曲げ加工を教えるとき、次は実際にやってもらう時間もつくってみませんか?

そうですね。自分でやってみないと、難しいところも分からないですからね。
翌日、佐藤さんは小林君に、もう一度配管の曲げ加工を教えることにしました。

小林君、今日は実際に自分で曲げてみよう!
まず、必要な寸法を確認して、どこから曲げ始めればよいか考えてみて!

はい。ここから曲げればいいと思います。

どうして、そこから曲げようと思った?

この寸法に合わせるには、ここを基準にすればいいと思ったからです。
佐藤さんは、小林君の考えを聞きながら、工具や管の条件に応じた寸法の取り方、曲げ位置、確認するポイントを説明しました。
そして、安全な作業方法を確認したうえで、小林君に実際に加工してもらいました。
加工が終わったら、寸法や曲がり具合を一緒に確認します。

今回は、ほぼ狙った寸法にできたね!
次は、自分で測って、曲げる位置を決めてみよう!
こうして、次の3つを行いました。
- 作業のポイントと理由を説明する
- 本人に実際にやってもらう
- できたことと改善点を一緒に確認する
では、この取り組みで若手職人が成長しているか、どうすれば分かるでしょうか?
そこで活用したいのがKPIです。
KPIとは、目標に向かって進んでいるかを確認するための指標です。
今回は、次の2つを考えてみます。
① プロセスKPI:教えたあと、本人に実際に作業してもらい、確認できた回数
例えば、1週間で5回教える機会があり、そのうち4回で、本人に実際に作業してもらい、理解度や仕上がりを確認できたとします。
この場合、実施回数は4回、実施率は80%です。
実施できなかった1回については、
「実際に作業する時間を確保できなかったのか?」
「説明だけで終わってしまったのか?」
「何を確認すればよいか決めていなかったのか?」
と振り返ります。
② 結果KPI:決めた基準で自分で作業できた回数
例えば、練習用の管を使い、安全な条件で5回加工し、そのうち4回は職長の手直しなしで、決めた寸法や仕上がりの基準を満たせたとします。
この場合、達成回数は4回、達成率は80%です。
ただし、数字だけで成長を判断するわけではありません。
「なぜ、その曲げ位置にしたのか説明できたか?」
「失敗したとき、原因を理解できたか?」
「分からないことを相談できたか?」
こうしたことも一緒に確認します。
KPIは、若手職人を責めるための数字ではありません。
教え方が相手に合っていたのか、実際にできるようになるための支援ができていたかを振り返るために使います。
そして、KPIを共有するときも、相手が大切にしていることを踏まえて伝えてみましょう。

小林君、曲げ方の理由まで分かるようになると、次は自分で判断しやすくなると思うんだ!
だから、実際にできた回数を一緒に確認して、どこまで身についたか見ていこう!

はい。自分でも、どこができるようになったか分かると助かります。
記録を続けることで、若手職人だけでなく、教える職長や監督自身の気づきにもつながります。
8. まとめ|「教えた」と「できる」は違う
今回、職長は若手職人に作業を見せて教え、「わかりました」という返事を聞いて、理解してくれたと思っていました。
しかし、一人で作業してみると、若手職人は曲げ始める位置を判断できず、うまく加工できませんでした。
問題は、誰が正しいか、間違っているかではありません。
教える側が「理解できた」と考える状態と、教わる側が実際にできる状態が、そろっていなかったことです。
そして、今回の出来事を通して、監督は一つのことに気づきました。

見せて教えることも大切だけど、それだけでできるようになったとは限らないんだな!
実際にやってもらい、どこまでできるようになったかを確認することが大切なんだ!
電気工事の現場には、今でも「仕事は見て覚えろ」という教え方が残っています。
もちろん、経験豊富な職人の仕事を見て学ぶことは大切です。
言葉では伝えきれない技術やコツも、実際の作業を見ることで学べます。
ただ、「見て覚えろ」だけで、本当にできるようになるのでしょうか?
見せて終わりにするのではなく、なぜそうするのかを伝え、実際にやってもらい、できたかどうかを一緒に確認する。
これからは、そんな教え方も取り入れていく必要があると思います。
そして、若手を直接教える職長だけでなく、職長が教えやすい環境を整え、育て方を一緒に考えることも監督の大切な役割です。
まずは明日、一つの作業を教えたあとに、
「今度は自分でやってみようか」と声をかけてみてはいかがでしょうか。
「見て覚えろ」で終わらせず、「できるようになったか」まで確認する。
そんな小さな見直しが、若手の成長を支え、職長の教える力を高め、安心して任せられる現場づくりにつながっていくと思います。
⛑️保安全に⛑️
参考書籍
石田淳 著『行動科学を使ってできる人が育つ! 教える技術』(かんき出版)
参考にした箇所
CHAPTER 5「どのくらい教えればいいか」
- 27「『わかりました!』をあてにしない」
- 28「『わかる』から『できる』に変えるためのサポート」
本記事では、上記のテーマを参考に、電気工事現場で起きる「教え方のズレ」について独自に解説しました。書籍本文の直接引用は行っていません。
サンプルKPI
今回の記録項目は次の2つです。
プロセスKPI:教えたあと、本人に実際に作業してもらい、確認できた回数
結果KPI:決めた基準で自分で作業できた回数
記録する目的は、誰かを評価することではありません。
教えたことが実際に身についているかを確認し、職長や監督の教え方を見直すために使います。
