
えっ! これで終わりなの?
そこまでやってくれると思っていたのに……
現場監督として、そんなふうに感じたことはありませんか?
今回の現場は
なぜ、同じ作業を頼んだのに仕上がりが違ってしまったのか。双方の考えをひも解きながら、完成基準をそろえるヒントを探っていきます。
1. 終わったはずの分電盤
ある日の朝礼
現場監督の鈴木さんが、職長の佐藤さんに作業をお願いしました。

佐藤さん、今日は2階の分電盤の結線を仕上げてください。夕方には確認したいので、お願いします。

わかりました!
佐藤さんは、図面を確認しながら、分電盤の結線作業を進めました。
ケーブルを整理し、図面に合わせて各回路を接続していきます。
そして夕方

鈴木さん、分電盤の結線が終わりました!

ありがとうございます。確認しますね。
監督の鈴木さんが分電盤を確認すると、結線は進んでいましたが、回路表示や盤内の掃除、入線口の処理など、まだ仕事が残っていました。

えっ! 表示や確認記録は、まだ終わっていないの?

はい。結線は終わりましたが、表示や記録はこれからです
監督は、夕方には表示や必要な確認まで済み、社内確認に進められる状態になっていると思っていました。
一方、職長の佐藤さんは、結線作業そのものを終わらせることが今日の指示だと考えていました。
2. なぜ、完成の状態が違ったんだろう?

結線を仕上げてほしいと伝えましたよね?

はい。なので、まずは結線を終わらせました。表示や確認は、そのあとだと思っていました。
ここで、
「そこまでやって完了だろう!」
「いつもやっていることじゃないか!」
と、言いたくなるかもしれませんが……


なるほど。佐藤さんは、結線が終わった段階で、いったん作業完了だと考えていたんですね?
まずは、相手の考えを受け止めてみましょう。
ここで大切なのは、相手の判断が正しかったと認めることではなく、なぜそう考えたのかを理解しようとすることです。
そして、一歩引いて考えてみます。
事実:実際に起きたこと
- 監督は、分電盤の結線を仕上げてほしいと伝えた。
- 職長は、結線作業を進め、完了したと報告した。
- 監督が想定していた表示や確認記録などは、まだ残っていた。
解釈:監督がどう受け取っていたのか
- 「そこまで言わなくても分かるはずだ」
- 「最後まで仕上げる意識が足りないのかな」
- 「どうして毎回、確認しなければならないんだろう」
この2つを分けて考えると、見えてくることがあります。

佐藤さんは、手を抜いたわけではないのかもしれないな。
そもそも、自分と佐藤さんで『仕上げる』の意味が違っていたのでは?
自分の考えだけをぶつけてしまうと、相手は責められていると感じ、本当の考えを話しにくくなることがあります。
なぜ認識が違っていたのかを知らなければ、同じ問題が繰り返されるかもしれません。
だからこそ、まずは何が起きていたのかを一緒に整理することが大切です。
3. 人によって大切にすることは違う
同じ仕事をしていても、人によって大切にしていることは違います。
例えば、タイプ1には「正しく進めたい」「間違いを残したくない」という思いを大切にしやすい傾向があるとされています。
今回の佐藤さんが、仮にそのような考え方を大切にする人だったら、どうでしょうか。
まずは結線を正確に終わらせ、そのあと表示や確認を進めようとしていたのかもしれません。
ただし、これは一つの仮説です。
実際には、工程の指示をどう理解したのか、作業の進め方をどう考えていたのか、本人に聞かなければ分かりません。

佐藤さんは、結線を正確に終わらせることを大切にしていたのかもしれないな。
でも、自分が考えていた完成の状態とは違っていた!
どうすれば、お互いが同じ完成の状態を目指せるだろう?
ここで大切なのは、相手の考え方を変えようとすることではありません。
相手が何を大切にしているのかを理解したうえで、仕事の完成基準を共有することです。
例えば、職長にこんなふうに聞いてみます。

佐藤さん、今日はどこまで終わらせる予定だった?

まず結線を終わらせて、表示と確認は明日進めようと思っていました。

なるほど。
自分は、今日中に表示と必要な確認まで済ませて、社内確認に進める状態を考えていたんです。
こうして話してみると、お互いが考えていた完成の状態が違っていたことが分かります。
では、どうすれば、お互いが同じ完成の状態を目指せるのでしょうか?
ここで、仕事を任せるときの伝え方について考えてみます。
4. 『部下をもったらいちばん最初に読む本』から考える

今回、参考にしたいのは、橋本拓也さんの著書『部下をもったらいちばん最初に読む本』です。
この本では、部下の成長を支えながら、仕事を任せ、組織として成果を出すためのマネジメントの技術が紹介されています。
その中の第4章で「委任する技術」が取り上げられています。
委任とは、単に仕事を頼むことではありません。
私は、現場で仕事を任せるときには、何を任せるのかだけでなく、どのような状態を目指すのかを共有することが大切だと考えています。
今回の分電盤の結線作業に当てはめてみましょう。
監督は「結線を仕上げてください」と伝えました。
しかし、監督と職長では、完成の状態が違っていました。
監督が考えていた完成
- 結線が終わっている
- 回路表示が終わっている
- 盤内の掃除が終わっている
- 入線口の処理が終わっている
職長が考えていた完成
- まず結線作業を終わらせる
ここで、鈴木さんは気づきました。

結線を仕上げてほしいとは伝えたけど、どこまで終われば完成なのかまでは伝えていなかったな!
自分が当たり前だと思っていることが、相手にも同じように伝わっているとは限らないんだ!
私は、仕事を任せるときに重要なのは、作業の進め方を細かく指示することではなく、まず完成の状態を共有することだと考えています。
「どこまでできれば完成なのか」を共有したうえで、「どのように進めるか」を職長に任せる。
そうすることで、職長も自分で考えながら作業を進めやすくなります。
5. 今回の問題を「5つのズレ」で整理する

私は、現場で起きる問題を次の5つに分けて考えています。
- 優先順位のズレ:何を先に進めるか
- 確認のズレ:どこで確認・相談するか
- 完成基準のズレ:どこまでできれば完了か
- 教え方のズレ:何をどのように伝えるか
- 任せ方のズレ:どこまで任せ、どこから相談するか
今回の中心となるのは、完成基準のズレです。
監督は、結線だけでなく、表示や必要な確認まで終えた状態を完成と考えていました。
一方、職長は、結線作業が終わった段階で、いったん完了したと考えていました。
このように、「どこまでできれば完成なのか」という判断が、人によって違っている状態を、私は「完成基準のズレ」と呼んでいます。
ここで、もう一つ気になることがあります。

そういえば、完成の状態を具体的に説明していなかったな。
佐藤さんがどう理解したかも、確認していなかった……
今回は、完成基準だけでなく、伝えた内容が相手にどう伝わったのかという「教え方のズレ」も関係しているかもしれません。
こうして分けて考えると、改善するべきことが見えてきます。
6. どんな状態を目指すのか?
では、今回のようなことを繰り返さないためには、どうすればよいのでしょうか?
監督は考えました。

だったら、作業内容を全部細かく指示すればいいのかな?
でも、それでは職長が自分で考える機会が減り、監督も細かい指示を出し続けなければなりません。
大切なのは、作業のすべてを指示することではありません。
どんな状態になれば完成なのかを共有し、そこに至る進め方は職長が考えられるようにすることです。
今回のゴールは
「監督と職長が完成の状態を共有し、職長が自分で進め方を判断しながら、決めた基準で完了報告できる状態」
とします。
このゴールを、監督と職長で共有します。
7. 明日からできることとKPI

監督は、次の分電盤作業を依頼するときは、伝え方を変えてみることにしました。

今日は2階の分電盤を進めてください!
今回の完了ラインは、結線に加えて回路表示を済ませ、指定した測定・確認と記録、必要な写真までそろえ、社内確認に進められる状態です。
測定や確認は決められた安全手順で行い、不明な点や異常があれば、その場で作業を止めて相談してください。
作業の進め方は職長に任せます。夕方にどこまで終わる見込みか、確認させてください。
そして、最後に職長へ確認しました。

佐藤さん、今日の完了ラインは、どういう状態だと考えていますか?

結線と表示を終わらせて、指定された測定・確認と記録、写真までそろえ、社内確認に進められる状態ですね!
こうして、次の3つを共有しました。
- 何をもって完成とするのか
- どこまで職長に任せるのか
- 途中で問題が起きたら、いつ相談するのか
もちろん、必要な検査や承認が終わっていない段階で、使用可能な完成状態と扱うわけではありません。工事ごとの安全・品質基準に従って確認します。
では、完成基準を共有することで、現場に変化があったのか、どうすれば分かるでしょうか?
そこで活用したいのがKPIです。
KPIとは、目標に向かって進んでいるかを確認するための指標です。
今回は、次の2つを考えてみます。
① プロセスKPI:作業前に完成基準を共有できた回数
例えば、1週間で完成基準の共有が必要な作業が5件あり、そのうち4件で、作業開始前に完了ラインを確認できたとします。
この場合、共有できた回数は4回、実施率は80%です。
共有できなかった1件については、
「忙しくて確認する時間がなかったのか?」
「完成基準を伝える必要がないと思っていたのか?」
「相手が理解したかを確認できていたのか?」
こうしたことを振り返ります。
② 結果KPI:完成基準の認識違いによる手戻り件数
例えば、改善前の1週間に、完成基準の認識違いによる手戻りが3件あったとします。
改善後、それが1件になったとしたら、何が変わったのかを振り返ります。
ただし、手戻り件数が減っただけで、必ず改善したとは限りません。
「必要な確認を省いていなかったか?」
「完成基準そのものは適切だったか?」
「問題を報告しにくくなっていないか?」
こうしたことも一緒に確認します。
KPIは、人を責めるための数字ではありません。
決めた完成基準が共有されているかを確認し、監督の伝え方や職長の判断基準を見直すために使います。
そして、KPIを佐藤さんに渡すときも、記録する目的を伝えます。

佐藤さんが丁寧に作業を進めてくれていることは分かっています!
ただ、お互いに完成の状態が違っていると、後から確認や追加作業が必要になってしまいます。
だから、作業前に完了ラインを共有できたかと、認識違いによる手戻りがなかったかを、一緒に確認してみませんか?
こうして、完成基準を共有する目的を、お互いに確認します。
記録を続けることで、職長だけでなく、監督自身の気づきにもつながります。
8. まとめ|「わかりました」だけで終わらせない
今回、監督は、職長が「わかりました」と返事をしたので、完成の状態も伝わっていると思っていました。
しかし、話を聞いてみると、職長は結線作業を終えることが今日の指示だと考えていました。
問題は、誰が正しいか、間違っているかではありません。
「どこまでできれば完成なのか」という判断基準が、監督と職長の間でそろっていなかったことです。
そして、今回の出来事を通して、監督は一つのことに気づきました。

わかりましたという返事だけで、伝わったと思っていたんだな!
完成の状態を具体的に伝えて、お互いの認識をそろえることが大切なんだ!
仕事を任せるということは、ただ作業を指示することではありません。
完成の状態を共有したうえで、その進め方を職長自身が考えられるようにすることも大切だと思います。
まずは明日の朝礼で、「今日は、どこまでできれば完成なのか?」 を一つ、具体的に伝えてみてはいかがでしょうか。
その小さな積み重ねが、職長の判断力を育て、監督が安心して任せられる現場につながっていくと思います。
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参考書籍
橋本拓也 著『部下をもったらいちばん最初に読む本』(アチーブメント出版)
本記事では、仕事を任せることや部下の成長を支えるマネジメントの考え方を参考に、電気工事現場で起きる「完成基準のズレ」について独自に解説しました。書籍本文の直接引用は行っていません。
サンプルKPI
実際の現場で使えるように、今回の記録項目を整理しました。
プロセスKPI:作業前に完成基準を共有できた回数
結果KPI:完成基準の認識違いによる手戻り件数
記録する目的は、誰かを評価することではありません。
完成基準がそろっているかを確認し、監督自身の伝え方や次の改善につなげるためです。
