なぜ、急ぎの作業より“気になる細部”を先に直すのか

目指すのは“今やるべきこと”をそろえること

今回の相談者は、電気工事の職長です。

現場では、急ぎで終わらせたい作業があるのに、部下や職人が先に細かい納まりや見た目の微調整を直している場面があります。

たとえば、

急ぎで配線を終わらせてほしいのに、先に器具の通りを直していた。
今日中に次工程へ渡す必要があるのに、見た目の微調整に時間を使っていた。
まず完了報告がほしい場面で、今でなくてもよい修正を先にしていた。

職長から見ると、

「そこ、今やるところじゃないだろう」
「先に終わらせてほしかった」
「細かいところは後でいいのに」

と感じます。

しかし、本人はサボっているわけではありません。
むしろ、ちゃんと仕上げようとしていることが多いです。

ここで目指すのは、細かいところを気にするな、という話ではありません。

大事なのは、

今は、完了を優先する場面なのか。
それとも、品質を整える場面なのか。

この判断基準をそろえることです。


相談者|社長が育てたい人

今回の相談者は、電気工事会社の職長です。

社長から見ると、今後もっと現場を任せたい人です。

技術もある。
責任感もある。
現場もよく見ている。
細かいところにも気づける。

だからこそ、社長としては期待しています。

ただ、現場を任せていく中で、ひとつ気になることがあります。

それは、

急ぎの作業よりも、気になる細部を先に直してしまうことがある

という点です。

仕事が雑なわけではありません。
むしろ丁寧です。

でも、現場全体で見ると、

次工程が待っている。
他の職人が止まっている。
今日中に終わらせる必要がある。
元請けへの報告時間が迫っている。

そんな場面でも、本人は目の前の「気になるところ」を先に直してしまう。

社長や職長から見ると、

「正しいのは分かるけど、今はそこじゃない」

というズレが起きます。


相談内容|急ぎの作業より、細かい修正を先にしてしまう

今回の相談内容は、これです。

急ぎで進めてほしい作業があるのに、本人が先に細かい部分を直してしまう。

たとえば、職長が、

「今日は午前中にこの配線を終わらせて、午後から器具付けに入りたい」

と考えていたとします。

しかし、部下は途中で、

「ここの納まりが少し気になる」
「このまま進めると見た目が悪い」
「あとで直すより、今直した方がいい」

と判断して、細かい部分を先に直してしまう。

結果として、急ぎの作業が遅れます。

職長はイライラします。

でも本人は、

「悪いところを直しただけです」
「このままだと仕上がりが悪いと思いました」
「後で手直しになるより良いと思いました」

と考えています。

ここにズレがあります。

職長は、工程全体を見ている。
本人は、目の前の完成度を見ている。

この見ているものの違いが、優先順位のズレになります。


とりあえずの結論

今回の結論は、これです。

細部を気にする人には、「今は何を優先する時間なのか」を先に伝えることが必要です。

細かいところに気づく力は、現場では大切です。

品質を守る。
安全を守る。
仕上がりを整える。
手戻りを防ぐ。
雑な仕事を残さない。

これは、現場にとって必要な力です。

ただし、その力が強く出すぎると、

今やるべき作業よりも、
目の前の正しくない部分を直すことが先に来てしまいます。

だから、

「細かいところを見るな」

ではなく、

今は完了優先なのか。
今は品質優先なのか。
どこまで直せばOKなのか。
どこから先は後でよいのか。

この基準を先に伝えることが大事です。


簡単な自己紹介

電気工事士のまさやです。

工業高校の電気科を卒業後、25年以上、電気工事の現場で働いてきました。

見習い、段取り、応援、職長、現場代理人、請負、小規模な経営まで、現場の中でいろいろな立場を経験してきました。

その中で何度も感じたのは、

技術があるのに、現場がうまく回らない場面がある

ということです。

任せたのに、思った通りに進まない。
確認が多くて、判断が止まる。
人によって仕上がりが変わる。
優先順位がズレる。
結局、社長や職長が判断を抱えてしまう。

こうした問題は、能力不足だけが原因ではありません。

多くの場合、

何を優先するか
どこで確認するか
どこまでやれば完成か
どう教えるか
どこまで任せるか

という基準が、人によって違っていることから起きています。


私のKGI

私が目指しているKGIは、これです。

社長が判断を抱え込まず、職長と若手が基準に沿って動ける現場をつくること。

現場では、社長や職長がすべてを見続けることはできません。

だからこそ、部下や職人が自分で判断できる状態をつくる必要があります。

ただし、自分で判断するといっても、好き勝手に動くことではありません。

会社として、現場として、

何を優先するのか。
どこまででOKなのか。
どこで確認するのか。
何を先に終わらせるのか。

この基準に沿って動けることが大切です。

今回のテーマでいえば、

細かい部分に気づける力を活かしながら、現場全体の優先順位に合わせて動ける状態をつくる

ことがゴールです。


今回のズレ

今回のズレは、

優先順位のズレ

です。

職長は、

「まず急ぎの作業を終わらせてほしい」
「次工程に渡すことを優先してほしい」
「今日中に完了させることを優先してほしい」

と考えています。

一方で、本人は、

「気になるところを直してから進めたい」
「中途半端なまま次に行きたくない」
「雑な仕事を残したくない」
「後で手直しになるくらいなら、今直した方がいい」

と考えています。

どちらも間違いではありません。

ただ、現場では常に、

品質
工程
安全
人の動き
元請け対応
次工程
今日の期限

この全体を見ながら判断する必要があります。

つまり、今回のズレは、

本人は品質を守ろうとしている。
職長は工程全体を守ろうとしている。

この違いです。


会話形式で具体化していく

職長
「昨日の現場なんだけど、午前中に配線を終わらせてほしかったんだよね。」

部下
「はい。分かっていました。」

職長
「でも、途中で器具の位置を直していたよね?」

部下
「はい。少し通りが悪かったので、先に直した方がいいと思いました。」

職長
「直すこと自体は悪くないよ。気づいたのもいいことだと思う。」

部下
「ありがとうございます。ただ、そのまま進めると見た目が悪くなると思って。」

職長
「そこは分かる。でも昨日は、午前中に配線を終わらせることが最優先だった。」

部下
「見た目より、先に配線完了だったということですか?」

職長
「そう。昨日は次工程が待っていたから、細かい修正は午後か、最後の確認でよかった。」

部下
「なるほど。自分は、気づいた時に直した方がいいと思っていました。」

職長
「その考え方も大事。でも毎回それをすると、現場全体が遅れることがある。」

部下
「どこまで先に直してよくて、どこから後でいいかが分からなかったです。」

職長
「そこだね。これからは、朝礼で“今日の最優先”と“後でよい修正”を分けて伝えるようにする。」

部下
「それがあると動きやすいです。」

職長
「たとえば今日は、午前中は配線完了が最優先。見た目の微調整は、安全や施工不良に関わるもの以外は午後に回す。」

部下
「安全や不良につながるものは、その場で確認。見た目だけなら後で、ということですね。」

職長
「そう。それが分かれば、細かいところに気づく力も活かせる。」


タイプを確認する

このような行動が出やすいのは、タイプ1の傾向がある人です。

タイプ1を一言でいうと、

ちゃんとしたい人

です。

タイプ1の人は、現場で次のようなことを大切にしやすいです。

雑な仕事を残したくない。
間違ったまま進めたくない。
品質を守りたい。
安全に進めたい。
ルール通りに進めたい。
後で手直しになることを防ぎたい。
きちんとした状態で次に進みたい。

これは現場では、とても大切な強みです。

電気工事の現場では、細かい違和感に気づける人がいるから、ミスや手戻りを防げることがあります。

ただし、タイプ1の「ちゃんとしたい」が強く出すぎると、

今すぐ直す必要がないところまで先に直してしまう。
完了よりも細部の修正を優先してしまう。
全体工程よりも目の前の正しさを優先してしまう。
合格ラインを超えても、さらに整えようとしてしまう。

ということがあります。

だから、タイプ1の人には、

「ちゃんとしなくていい」

ではなく、

今回は何を優先するのか
どこまででOKなのか
どこから先は後でよいのか

を具体的に伝えることが大切です。


今回の目標

今回の目標は、これです。

急ぎの作業と細部の修正を分けて判断できるようにすること。

つまり、

今すぐ直すべき細部なのか。
後で直してもよい細部なのか。
先に完了させるべき作業なのか。
確認してから判断すべきことなのか。

これを現場で分けられるようにします。

特に大事なのは、次の3つです。

1つ目は、今日の最優先を決めること。
2つ目は、後でよい修正を決めること。
3つ目は、確認する基準を決めること。

これがないと、本人は自分の中の基準で判断します。

その結果、

「気になるから直す」
「雑に見えるから直す」
「後で困りそうだから直す」

となります。

でも、職長が先に基準を出しておけば、

「今は完了優先」
「これは後でよい」
「これは確認が必要」

と判断しやすくなります。


改善プロセス

改善は、次の流れで進めます。

1. 何が遅れたのかを確認する

まず見るべきは、

何を先にしたか

ではなく、

その結果、何が遅れたのか

です。

たとえば、

配線完了が遅れた。
器具付け開始が遅れた。
次工程への引き渡しが遅れた。
元請けへの報告が遅れた。
他の職人の作業開始が遅れた。

ここを確認します。

「細かいところを直したこと」が問題なのではありません。

その結果、現場全体で何が止まったのか。
ここを見ます。


2. その細部は、今すぐ必要だったのかを分ける

次に、本人が直した細部を確認します。

その修正は、

安全に関わるものか。
施工不良につながるものか。
後で隠れて直せなくなるものか。
元請け検査で問題になるものか。
見た目の微調整なのか。
最後でも直せるものなのか。

このように分けます。

今すぐ直すべきものもあります。

たとえば、安全に関わるもの、施工不良になるもの、後から直せないものは、その場で止める判断が必要です。

一方で、見た目の微調整や、最後にまとめて直せるものは、急ぎの作業後でもよい場合があります。


3. 朝礼で「今日の最優先」を伝える

朝礼では、ただ作業内容を伝えるだけでは足りません。

大事なのは、

今日、何を最優先にするのか

を伝えることです。

たとえば、

「今日は午前中に配線完了が最優先」
「細かい納まりの調整は午後にまとめる」
「安全や施工不良に関わるものだけ、その場で止めて確認」
「見た目の微調整は、完了後にチェックする」

このように伝えます。

これだけで、本人の判断はかなり変わります。


4. 合格ラインを決める

タイプ1の人は、自分の中に高い基準を持っていることがあります。

そのため、職長が合格ラインを伝えないと、本人の中の100点を目指してしまいます。

だから、

「今日はここまでできていればOK」
「この状態なら次工程へ渡してよい」
「見た目の微調整は最後でよい」
「今は80点で進めて、最後に整える」

という合格ラインを伝えます。

これは、雑にやるという意味ではありません。

現場全体を止めないために、今の合格ラインをそろえるということです。


5. 確認ラインを決める

最後に、確認する基準を決めます。

たとえば、

「安全に関わると思ったら、すぐ確認」
「後から直せないと思ったら、すぐ確認」
「見た目だけの微調整なら、写真を撮って後で相談」
「5分以上迷うなら確認」
「次工程が止まりそうなら、先に報告」

このように、確認ラインを決めます。

確認ラインがあると、本人も動きやすくなります。

勝手に直し続けるのではなく、止めるべき時と進める時を分けられるようになります。


今回の参考図書

今回の考え方の土台として参考になるのは、

『イシューからはじめよ』

です。

この本では、まず何を解くべきか、何に取り組むべきかを見極めることの大切さが書かれています。

現場でも同じです。

目の前に気になることがあると、すぐ直したくなります。

でも、本当に今取り組むべきことは何か。
今、現場全体で一番重要なことは何か。
そこを間違えると、正しい作業をしているのに、現場全体ではズレることがあります。

今回のテーマでいえば、

「細部を直すこと」が悪いのではありません。

問題は、

今、それが一番先にやるべきことなのか

です。

細部の修正が必要な場面もあります。
でも、工程を進めることが先の場面もあります。

だからこそ、現場では、

今日のイシューは何か
今、一番守るべきものは何か

をそろえることが大切です。


今回の2つのKPI

今回のKPIは、次の2つです。

KPI 1

最優先作業を朝礼で共有した回数

これは、職長側の行動を見るKPIです。

部下が優先順位を間違える時、本人だけの問題とは限りません。

職長が、

今日の最優先
後でよい作業
確認してほしい場面
完了の基準

を伝えていないこともあります。

だから、まずは朝礼で最優先作業を共有した回数を見ます。

例としては、

「今週5日中、何日伝えたか」
「朝礼で最優先作業を言葉にしたか」
「後回しにしてよい作業まで伝えたか」

を確認します。

目標は、

週5日のうち、4日以上は最優先作業を共有する

です。


KPI 2

急ぎの作業が細部修正で遅れた回数

これは、現場側の結果を見るKPIです。

たとえば、

急ぎの配線が遅れた。
次工程への引き渡しが遅れた。
完了報告が遅れた。
他の職人が待つ時間が出た。

その原因が、今すぐ必要ではない細部修正だった場合、記録します。

ここで大事なのは、責めるために数えるのではないということです。

目的は、

どの場面で優先順位がズレやすいのかを見える化すること

です。

目標は、

1週間で3回あったものを、1回以下に減らす

です。

数字で見ることで、感覚ではなく改善として扱えるようになります。


現場でのやり方・声かけ例

朝礼での伝え方

「今日は午前中に配線完了が最優先です。細かい納まりの調整は、午後にまとめて確認します。」

「安全や施工不良につながるものは、その場で止めて確認してください。見た目の微調整だけなら、まずは完了を優先してください。」

「今日のゴールは、完璧に整えることより、次工程に渡せる状態まで進めることです。」

「気になるところがあったら、勝手に直し続けずに、写真を撮って後で一緒に確認しましょう。」

「5分以上迷ったら、そこで一度確認してください。」


タイプ1に伝える時の声かけ

「気づいてくれたのは助かる。そこに気づけるのは強みだよ。」

「ただ、今日は工程を進めることが最優先だから、その修正は後でやろう。」

「今は完璧に整える時間ではなく、次工程に渡す時間です。」

「安全や不良につながるものなら止めていい。見た目の微調整なら後でまとめよう。」

「雑にしていいという意味ではなく、今は順番を変えたい。」

「あなたの品質を見る力は必要です。ただ、今やるか後でやるかを分けよう。」


NGになりやすい言い方

「そんな細かいことはいいから早くやれ」

「そこまでやらなくていい」

「いちいち気にしすぎ」

「今それ関係ないだろ」

「勝手なことをするな」

この言い方をすると、タイプ1の人は、

自分の品質への意識を否定された。
ちゃんとやろうとしたのに怒られた。
雑にやれと言われている。

と受け取ることがあります。

だから、まずは気づいたことを認める。
その上で、今の優先順位を伝える。

この順番が大切です。


現場で使える確認ルール

現場では、次のようなルールを作ると動きやすくなります。

安全に関わるものは、すぐ止めて確認。
施工不良につながるものは、すぐ確認。
後から直せないものは、先に確認。
見た目の微調整は、写真を撮って後で確認。
最後にまとめて直せるものは、完了後に対応。
5分迷ったら確認。
次工程が止まりそうなら、先に報告。

このルールがあると、本人も迷いにくくなります。


まとめ

急ぎの作業より、気になる細部を先に直してしまう。

この行動だけを見ると、

「優先順位が分かっていない」
「勝手に動いている」
「今やることが見えていない」

と感じるかもしれません。

しかし、本人は手を抜いているわけではありません。

多くの場合、

ちゃんと仕上げたい。
雑な仕事を残したくない。
後で手直しになるのを防ぎたい。
品質を守りたい。

という思いから動いています。

特にタイプ1の人は、「ちゃんとしたい」という思いが強いため、目の前の正しくない状態を放っておきにくいことがあります。

この力は、現場にとって大切です。

ただし、現場では品質だけでなく、工程、期限、次工程、人の動きも見なければいけません。

だから必要なのは、

細かいところを見るな

ではなく、

今は何を優先するのかをそろえること

です。

そのために、職長は朝礼で次のことを伝えます。

今日の最優先。
後でよい修正。
今すぐ確認すべきこと。
どこまででOKか。
5分迷ったら確認すること。

今回のKPIは、

最優先作業を朝礼で共有した回数
急ぎの作業が細部修正で遅れた回数

です。

この2つを見ることで、優先順位のズレを感覚ではなく、改善として扱えるようになります。

細部に気づく力は、現場の財産です。

その力を否定するのではなく、

今やることと、後でよいことを分ける。

それができると、品質も守りながら、現場全体も前に進みやすくなります。